第12回分子糖尿病学シンポジウム抄録集

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2001.08.17 抄録集を掲載いたしました。


シンポジウムプログラムNO
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1.Reg蛋白受容体の構造と機能 ----------------------------------------------------------------------------      東北大学大学院・医・生物化学,外科病態学,呼吸器病態学    小林誠一,秋山貴子,那谷耕司,Nausheen J. Shervani,池田崇之,中川 圭,    加藤一郎,海野倫明,松野正紀,佐々木英忠,高澤 伸,岡本 宏 ----------------------------------------------------------------------------          我々はこれまでに90%膵切除ラットにポリADPリボース合成酵素阻害物質である ニコチン酸アミドを連日投与すると残存膵のランゲルハンス島(ラ島)が再生して糖尿病状態が 改善することを見いだし,この再生ラ島で特異的に発現している遺伝子 Reg(Regenerating gene)を 単離した。 また,その遺伝子産物であるReg蛋白の投与によって膵ラ島が再生・増殖して 外科的糖尿病・自己免疫異常糖尿病が改善されることを示し,Reg蛋白が膵β細胞の再生・増殖 因子であることを明らかにした。 今回,ラットReg蛋白の受容体を単離し,その構造と機能を明らかにしたので報告する。  Pichia pastorisを用いて調製した組換えラットReg蛋白を125-I標識し,これをプローブと してラット膵ラ島cDNAライブラリーを発現スクリーニングした。 単離されたcDNAは919アミノ酸の蛋白をコードしており,そのN末端側には一回膜貫通部位が存在した。 これをCOS-7細胞に導入すると,Reg受容体蛋白は細胞膜上に発現し,ラットReg蛋白に 結合することが確認された。同様にCHO細胞に導入してもラットReg蛋白・ヒトREG蛋白に結合し, その結合定数はそれぞれ4.4 nMと16.0 nMであった。  RNaseプロテクション法を用いてmRNAの発現を調べると,ラット再生膵ラ島および 正常ラ島で発現が認められた。cDNAを導入してReg蛋白受容体を過剰発現させたRINm5F細胞 株を作成し,Reg蛋白による増殖を検討した。 これらの細胞株ではReg蛋白(0.3-100 nM)の濃度依存的にBrdUの取り込みが上昇し, 細胞数の増加が認められた。 したがって,Reg受容体を介してReg蛋白による細胞増殖刺激が伝えられていることが明らかとなった。 また,高濃度(300-1000 nM)のReg蛋白ではアポトーシスが観察された。 したがって,Reg蛋白とReg受容体の結合によって引き起こされる細胞数増加とアポトーシスに よって膵β細胞数のコントロールがなされている可能性が考えられた。          このページの最初に戻る
          2.ポリADPリボース合成酵素によるReg遺伝子の転写調節機構 ----------------------------------------------------------------------------      東北大学大学院・医・生物化学分野、同消化器外科学分野1)         秋山貴子、中川 圭、小林誠一、那谷耕司、野口直哉、阿部倫明、    Nausheen J.Shervani、池田崇之、高沢 伸、松野正紀1)、岡本 宏 ----------------------------------------------------------------------------     【目的】我々は、90%膵切除ラットにポリADPリボース合成酵素阻害物質である ニコチン酸アミド(NA)を投与して誘導される再生膵ランゲルハンス島(ラ島)で 特異的に発現する遺伝子Reg(regenerating gene)を単離した(1,2)。 外科的糖尿病や自己免疫性糖尿病モデル動物にReg蛋白質を投与するとβ細胞が増殖し、 糖尿病が治癒することからRegがβ細胞増殖因子であることを示した(3,4)。 また、Reg受容体は、正常および再生ラ島どちらでも発現しているので(5)、 Reg遺伝子がラ島再生・増殖時に発現誘導されることが重要と考えられた。     【方法・結果】Reg遺伝子がinterleukin-6(IL-6)とdexamethasone(DX)により誘導され、 NAにより発現が増強されることを見いだした。 Reg遺伝子5’上流域をプロモーターアッセイにより解析し、 -81~-70 (TGCCCCTCCCAT) のGC box類似の配列がIL-6/DX/NAによる転写誘導に 必須のcis-elementと考えられた。 Gel mobility shift assayを行うと、転写誘導に一致して出現するバンドが認められ、 ポリADPリボース合成酵素(PARP)が存在していた。 この複合体形成はPARP自身のポリADPリボシル化により阻止された。 また、Southwestern法によりcis-elementにPARPが結合することを確認した。 【結論】Reg遺伝子の膵ランゲルハンス島における発現誘導機構は、膵切除等により発生した IL-6やglucocorticoidなどの炎症性メディエーターがReg遺伝子の-81~-70のGC box類似の 配列にPARPが結合し、転写複合体を形成することで転写が誘導され、発現を誘導すると 考えられた。 NAなどのポリADPリボース合成酵素阻害物質はポリADPリボース合成酵素の 自己ポリADPリボシル化を阻害することで転写複合体を安定させ、転写誘導を増強すると考えられた(6)。 1) Diabetes 33, 401 (1984); 2) JBC 263, 2111 (1988); 3) PNAS 91, 3589 (1994); 4) Endocrinology 139, 2369 (1998); 5) JBC 275, 10723 (2000) 6) PNAS 98, 48 (2001) このページの最初に戻る
3.CAMPS, 開口放出におけるcAMPの標的分子 ----------------------------------------------------------------------------      千葉大学大学院医学研究科分子機能制御学1) 、名古屋大学医学部第一内科2)、CREST3)         尾崎信暁1),2)、柴崎忠雄1)、鹿島康薫1)、三木隆司1)、高橋和男3)、上野浩晶1)、 須永康弘1)、三浦義孝2)、大磯ユタカ2)、矢野秀樹1)、清野 進1)      ----------------------------------------------------------------------------       cAMPは多くの分泌細胞において開口放出を調節することが知られているが、      その直接的な標的分子は不明であった。      我々はyeast two-hybrid法を用いて新たなcAMP結合タンパク質(CAMPSと命名)を同定した。 さらに、CAMPSがシナプス小胞の細胞膜への融合をRab3依存性に調節するRim(以下Rim1)と その新たなisoform、Rim2と結合することを確認した。Northern blot解析によりCAMPSは脳 及び内分泌組織においてRim1、Rim2との共発現を認め、CAMPSの開口放出への関与が示唆された。 CAMPSとヒト成長ホルモン(以下GH)を共発現したPC12細胞を用いた分泌実験ではCAMPSは forskolin及び8-Br-cAMPによるCa2+依存性のGH分泌を促進し、さらにその効果はPKA inhibitorに より完全には抑制されなかった。また、内因性CAMPSのインスリン分泌に対する役割について マウス単離膵島を用いて検討した。8-Br-cAMPによるインスリン分泌はCAMPSに対する アンチセンスオリゴ処置により抑制された。       今回我々の同定したCAMPSはRab3のエフェクターであるRim1、Rim2と共役し、      cAMP依存性しかもPKA非依存性のホルモン、神経伝達物質の調節性分泌に関与することが示された。 このページの最初に戻る
4.膵β細胞発生におけるHNF-1aの意義:Dominant negative HNF-1a発現トランスジェニックマウスを用いた解析 ----------------------------------------------------------------------------      大阪大学医学部分子制御内科1)、大阪医科大学第一内科2)         山縣和也1)、南茂隆生1)、森脇信1)、楊勤1)、栩野義博1)、李銘1)、上中理香子1)、         岩橋博見1)、花房俊昭2)、宮川潤一郎1)、松澤佑次1) ----------------------------------------------------------------------------       Hepatocyte nuclear factor-1a (HNF-1a)の遺伝子異常はMODY3を引き起こすが、      HNF-1aの遺伝子異常がインスリン分泌不全型の糖尿病を引き起こす発症機構の詳細は不明である。      P291fsinsC変異はエクソン4でフレームシフトを起こす遺伝子異常であり、      これまで同定されているHNF-1aの遺伝子異常の中で、最も頻度の高い変異であり、      dominant negative作用を有している。MODY3発症の分子メカニズムを明らかにするために、      ラットインスリンプロモーターを使用し、P291fsinsC-HNF-1aを膵β細胞に過剰発現する      トランスジェニック(Tg)マウスを作製した。       雄Tgマウスの血糖は4週齢頃より上昇し、7週までに糖尿病を発症した      (Tg, 485.5 ア 147.0 mg/dl; control, 145.7 ア 23.0 mg/dl, p<0.01)。      またTgマウスのインスリン分泌能は対照と比して低下していた。      生後2日のTgマウスの血糖値は正常であったが、膵β細胞数は正常対照の50%に減少しており、      BrdUで測定した膵β細胞増殖率も対照の15%に減少していた。      また、生後2日のTgマウスはβ細胞と非β細胞が入り乱れた異常な膵島構築を示し、      対照マウスにおいて認められるような成熟した膵島は観察されなかった。      これら生後2日において認められた異常は4ー8週齢においてさらに増強され、      8週齢のTgマウスのインスリン含量は正常対照の4%にまで減少した。      しかし残存しているβ細胞におけるグルコキナーゼやPDX-1の発現は保たれていた。      以上の結果からHNF-1aは正常な膵β細胞の発生に重要であり、      HNF-1aの遺伝子異常による糖尿病の発症には、β細胞の増殖や膵島構造の異常が      関与している可能性が示された このページの最初に戻る
5.2型糖尿病に対するプロブコールの臨床応用への試み     ― 酸化ストレス及びLipotoxicityからの膵β細胞保護作用 ― ----------------------------------------------------------------------------      大阪大学情報伝達医学病態情報内科学(第一内科)         五郎川伸一, 梶本 佳孝, 馬屋原 豊, 金藤 秀明, 藤谷与士夫         黒田 暁生, 河盛  段, 松久 宗英, 山崎 義光, 堀  正二 ----------------------------------------------------------------------------      【目的】2型糖尿病の膵β細胞障害に酸化ストレスの関与が示唆されている。          高脂血症改善薬であるプロブコール(P)は抗酸化作用を有し酸化ストレスを          軽減して膵β細胞を保護する可能性がある。          今回、2型糖尿病におけるPの有用性を検討した。      【方法】C57BL/KsJ-db/dbマウスに6週齢より1%.Pを含む食事を与え、          耐糖能及び膵島組織に対する影響を検討した(10,13,16週)。      【結果】摂食量、体重に差はなかったが、P投与群ではIPGTTにおける負荷後の          インスリン分泌能の有意な改善とこれに伴う血糖値の低下を認めた。          加えて、酸化ストレスの軽減(4-HNEの減少)及び膵ラ島内のTG 含量の低下を認めた。      【結論】Pは2型糖尿病における酸化ストレスや Lipotoxicityの軽減を通じて膵β細胞を保護し          耐糖能を改善することが期待される。 このページの最初に戻る
6.インスリン刺激によるPI3-Kinaseの下流分子活性化に対するSHIP2の役割 ----------------------------------------------------------------------------      富山医科薬科大学 第一内科、 臨床薬理学1)         和田 努、笹岡利安1)、石原 元、堀 宏之、村上 史峰、石木 学、春田哲郎、小林 正 ---------------------------------------------------------------------------- 【目的】SH2-Containing Inositol 5-Phosphatase 2(SHIP2)はその内在する5'-ホスファターゼ活性により          脂肪細胞における糖取り込み作用とグリコーゲン合成作用を負に調節することを報告してきた。          今回インスリン作用発現におけるSHIP2の役割について、PI3キナーゼの下流分子の          活性化に対する影響を検討した。 【方法・成績】SHIP2の5'-ホスファターゼ活性を欠いたDIP-SHIP2(D)を作成し、          野生型(WT)とともにアデノウイルスベクターに組み込み、分化した3T3-L1脂肪細胞に          各SHIP2を一過性に過剰発現して以下の検討を行った。          SHIP2の過剰発現はPI3キナーゼ活性化に至る早期のインスリンシグナルには影響を与えなかった。          一方、インスリンによるPDK1活性化、Aktの燐酸化と活性化、PKClの活性化、          さらにPP1の活性化も、(WT)過剰発現により抑制され、(D)発現により亢進を認めた。 【結論】3T3-L1 脂肪細胞において、SHIP2がインスリンの代謝作用を負に調節するメカニズムとして、          内在する 5'-フォスファターゼ 活性によりPI3 キナーゼ代謝産物であるPtdIns(3,4,5)P3を          代謝する事が重要であり、 PtdIns(3,4)P2よりもPtdIns(3,4,5)P3がより強く          PI3キナーゼの下流に位置するPDK1、 Akt、 PKCl、 さらにPP1を活性化することが示唆された。 このページの最初に戻る
7.MKK6-p38 MAPキナーゼ経路による糖取り込み活性の調節 ----------------------------------------------------------------------------      東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科1)、東京大学分子細胞生物学研究所2)、朝日生命成人病研究所3)        藤城 緑1)、片桐秀樹1)、後藤由季子2)、犬飼浩一1)、 小野啓1)、大西由希子3)、菊池方利3)、浅野知一郎1) ----------------------------------------------------------------------------       近年p38/MPK2ファミリーは種々のストレス刺激により活性化され、      ストレス応答や細胞分化、アポトーシスなどに関与していることが報告されている。      p38 MAPキナーゼはインスリンによっても活性化されることが知られているが、      その上流のメカニズムは明らかにされていない。      最近、p38 MAPキナーゼの特異的阻害剤(SB203580)を用いた実験によって、      p38 MAPキナーゼの活性化はインスリンによる細胞膜上GLUT4の内因性活性の上昇に      関与している可能性が示唆された。      しかし一方、高浸透圧刺激やサイトカインなどのストレス刺激はp38 MAPキナーゼを活性化するが、      インスリン抵抗性をもたらすことが知られている。       そこで我々は、p38 MAPキナーゼ経路の糖取り込み調節における役割を      明らかにすることを目的に今回の実験を行った。      p38 MAPキナーゼの不活性型変異体、その上流に存在するMKK6の活性型および      不活性型変異体を発現するアデノウイルスを作成し、3T3-L1脂肪細胞とL6筋細胞に感染させた。       まず、p38およびMKK6の不活性型変異体を過剰発現させるとインスリンによる      p38 MAPキナーゼ活性の上昇は抑制されたが、インスリンによる糖取り込みの増加は抑制されなかった。      このことから、p38 MAPキナーゼがインスリンによるGLUT4を介した糖取り込み増加に関与している      可能性は否定的であると考えられた。       一方、活性型MKK6の過剰発現はp38 MAPキナーゼ活性を上昇させるとともに、      糖取り込みを顕著に増加させた。GLUT1および4の蛋白量とmRNA量を測定したところ、      GLUT1の発現量は著明に増加しGLUT4は激減していた。これらの変化はSB203580により復元された。      高濃度ソルビトールやTNFα、IL-1などの長時間刺激によっても同様の変化が見られた。       以上の結果から、慢性的なストレス刺激によるMKK6-p38 MAPキナーゼ経路の活性化は      GLUT1を増加させることによってbasalでの糖取り込みを増加させ、一方でGLUT4を      減少させることによりインスリン抵抗性を引き起こすことが示唆された。      この機構が糖尿病状態におけるインスリン抵抗性の成因の一部に関与している可能性が考えられる。 このページの最初に戻る
8.L6筋細胞、Fao肝細胞、3T3-L1脂肪細胞におけるPTP1B過剰発現のインスリン情報伝達に及ぼす影響 ----------------------------------------------------------------------------     滋賀医科大学第三内科        清水真也、前川聡、江川克哉、森野勝太郎、柏木厚典、吉川隆一 ----------------------------------------------------------------------------       インスリン情報伝達系はシグナル分子のチロシン燐酸化により制御され、      これにはチロシンキナーゼとチロシンフォスファターゼによる調節が重要であり、      インスリン抵抗性状態ではその調節異常が想定されている。      今回我々はアデノウイルスを用い、PTP1BをL6筋細胞、Fao肝細胞、3T3-L1脂肪細胞に過剰発現させ、      そのインスリン情報伝達に及ぼす影響を検討した。       L6筋細胞、Fao肝細胞において野生型PTP1Bの過剰発現は、インスリン受容体(IR)、      IRS-1のチロシン燐酸化、IRS-1とPI-3キナーゼの結合、Akt、MAPキナーゼの燐酸化を80%抑制し、      さらにグリコーゲン合成もほぼ完全に抑制した。      これに対し、L1脂肪細胞では、IR、IRS-1のチロシン燐酸化、IRS-1とPI-3キナーゼの結合を      50%抑制したものの、Aktの燐酸化、ブドウ糖取込み能の抑制は25%にとどまった。      L6筋細胞でのPDGF刺激による受容体の燐酸化は影響を受けておらず、      PTP1B過剰発現による作用は、インスリンシグナルに特異的であると考えられた。       以上のことより、PTP1Bは筋、肝細胞において、インスリン情報伝達を抑制的に調節し、      その作用は臓器特異的であると考えられた。 このページの最初に戻る
9.自然発症糖尿病マウスにおける脂肪細胞phosphodiesterase 3B(PDE3B)遺伝子発現とインスリン抵抗性 ----------------------------------------------------------------------------      愛媛大学医学部臨床検査医学/糖尿病内科         唐 岩、大澤春彦、大沼 裕、越智正昭、西宮達也、長谷川雅昭、牧野英一 ----------------------------------------------------------------------------       【目的】PDE3Bはインスリンにより活性化され、脂肪細胞からの遊離脂肪酸(FFA)放出を減少させる。          血中FFAの増加は骨格筋や肝臓におけるインスリン抵抗性をきたす。          従って、脂肪細胞のPDE3B遺伝子発現の低下は血中FFAの上昇を介して          インスリン抵抗性を惹起することが予想される。          そこで、肥満インスリン抵抗性モデルのKKAy及びdb/dbマウスの          副睾丸脂肪組織におけるPDE3B 遺伝子発現に対するチアゾリジン系薬剤の影響を検討した。       【方法】KKAyマウスにピオグリタゾンを、db/dbマウスにトログリタゾンを投与し、          PDE3B mRNA、蛋白、活性を測定した。       【成績】両マウス共にDE3BmRNA、蛋白、活性は、対照に比し50%と低下していたが、          チアゾリジン系薬剤により回復した。高血糖、高インスリン血症、高FFA血症も同時に改善した。       【結論】チアゾリジン系薬剤はKKAy及びdb/dbマウスの脂肪細胞において低下した          PDE3Bの発現を増強し血中FFA低下を介してインスリン抵抗性を改善する事が想定された。 このページの最初に戻る
10.糖尿病が老化を促進する      〜糖尿病患者におけるミトコンドリアDNA体細胞変異の蓄積〜 ----------------------------------------------------------------------------       順天堂大学医学部内科学代謝内分泌学講座1)、中国吉林省延辺大学医学院附属医院内分泌科2)       順天堂大学医学部神経学講座3)、日本医医科大学老人病研究所生化学部門4)、          野見山 崇1)、田中 逸1)、朴 蓮善2)、荻原 健1)、中嶋 邦博1)、服部 信孝3)          太田 成男4)、河盛 隆造1) ----------------------------------------------------------------------------        糖尿病原因遺伝子として知られているミトコンドリアDNA(mtDNA)3243変異は      健常人においても加齢と共に蓄積し、老化の原因もしくは指標となることが知られている。      糖尿病患者は強い酸化ストレス下にある事から、我々は糖尿病患者におけるmtDNA3243体細胞      変異蓄積を検討した。      臍帯血98例、健常成人192例、糖尿病患者389例の末梢血よりDNAを抽出し、      TaqMan Probeを用いた定量的PCR法にてmtDNA変異率を定量した。      臍帯血ではほとんど認められなかった3243変異が健常成人で僅かながら蓄積を認めた。      糖尿病患者では年齢依存性、罹病期間依存性に蓄積し、同年齢健常人の約4倍の変異率であった。      また、多変量解析にて糖尿病患者では罹病期間が変異蓄積の最重要因子である事が分かった(p=0.0367)。      さらに、ACE I/D、p22phoxC242T遺伝子多型と変異蓄積の関連を検討したところ、      動脈硬化促進に働く遺伝子型で変異蓄積の上昇を認めた。      以上より、糖尿病患者では体細胞変異蓄積が上昇し、細胞レベルの老化が進行しており、      その蓄積には遺伝的背景も関与している事が示唆された。 このページの最初に戻る
11.WFS1 (Wolfram症候群遺伝子1)蛋白の機能解析:細胞内局在とラット脳内発現 ----------------------------------------------------------------------------       山口大学第三内科1)、同第二解剖2)          竹田孔明1)、井上寛1)、谷澤幸生1)、篠田晃2)、岡芳知1) ----------------------------------------------------------------------------       Wolfram症候群はインスリン依存性の糖尿病、視神経萎縮を主徴とする常染色体劣性遺伝性疾患で、      種々の程度の精神症状,神経症状を伴うことが多い。我々は、ポジショナルクローニングにより、      その原因遺伝子WFS1を同定した。      今回、WFS1蛋白に対する特異抗体を作成し、培養細胞における細胞内局在とラット脳での発現を検討した。      細胞破砕後の分画や糖鎖処理から、WFS1蛋白は主としてERに存在する膜蛋白であることが示唆された。      培養細胞の免疫染色でも、WFS1蛋白の局在はER markerとほぼ一致した。      ラット脳では、WFS1蛋白、mRNAのいずれも大脳辺縁系に関連した領域に選択的に強く発現され、      患者が示す精神障害と関係すると思われた。ERへの局在はWFS1蛋白がmembrane trafficking、      protein processing、ER calcium homeostasisなどに関与する可能性を示唆する。      患者膵で認められるβ細胞の選択的脱落もERでのWFS1蛋白の機能異常が関連すると考えられた。 このページの最初に戻る
12.Chromosome Substitution Strain (CSS)を用いた2型糖尿病遺伝子の解析 ----------------------------------------------------------------------------       大阪大学加齢医学(第4内科)、愛知学院大学1)          馬場谷成、池上博司、川口義彦、藤澤智巳、上田裕紀、          野嶋孝次、糸井美知子、山田和紀、柴田昌雄1)、荻原俊男 ----------------------------------------------------------------------------       【目的・方法】近交系自然発症2型糖尿病のモデルマウス(NSYマウス)においてマップされた、          糖尿病感受性遺伝子座Nidd1n (Chr11)、Nidd2n (Chr14)のポジショナルクローニングを          目的として、NSYマウス由来の第11、第14染色体をC3H/Heに導入した          Chromosome Substitution Strain (CSS)を作製し、得られた2系統の          CSS(C3H.NSY-chr11、C3H.NSY-chr14)に関して、耐糖能関連形質をC3Hマウスと比較した。       【成績】C3H.NSY-chr11はC3Hマウスに比し、空腹時・負荷後血糖とも有意に高値を          示した(いずれのpointにおいてもp<0.05)。          空腹時インスリン値はC3Hに比し有意に高値(p<0.001)、糖負荷後のインスリン反応は          低値の傾向を示した。          C3H.NSY-chr14では、空腹時・負荷後血糖ともC3Hマウスと違いを認めなかったが、          空腹時インスリン値には有意の上昇(p<0.001)を認めた。          体重・腹腔内脂肪量については2系統のCSSともに、C3Hマウスと違いを認めなかった。       【結論】C3H.NSY-chr11が有意の血糖上昇を示したことから、第11染色体上のNidd1nが          耐糖能に強く影響することが示された。          C3H.NSY-chr14は体重・腹腔内脂肪に変化を認めずに空腹時インスリン値の上昇を          示したことから、第14染色体上に肥満を介さずにインスリン抵抗性に関与する          遺伝子の存在が示唆された。 このページの最初に戻る
13.糖尿病モデルとしての肥満IRS-1ヘテロノックアウトマウスの作製と解析 ----------------------------------------------------------------------------       熊本大学医学部代謝内科       加曾利糖尿病センター3)          白神敦久,豊永哲至,松本和也,本島寛之,田口哲也,吉里和晃,河島淳司,岸川秀樹,七里元亮,荒木栄一 ----------------------------------------------------------------------------       【目的】血糖,インスリン値等にWTと差のないIRS-1(+/-)(ヘテロ)マウスに肥満を導入,          糖代謝能を検討した。       【方法】6週齢でgold thioglucose(GTG)を投与し肥満を導入,肥満WT群と肥満ヘテロ群で          空腹時血糖,インスリン値を測定,糖負荷試験(GTT),インスリン負荷試験(ITT)を施行した。          また膵を摘出後HE染色,免疫染色を行った。       【結果】GTG投与でWT,ヘテロとも約30%の肥満を導入し得た。          空腹時血糖は2群間で著変なく,空腹時インスリン値は肥満ヘテロ群で有意に高値となった。          GTTでは60分値が肥満ヘテロ群で高値を示し,ITTでは肥満ヘテロは有意な血糖低下が減弱した。          膵の形態学的検討では肥満ヘテロは肥満WTより膵島の増大を認めた。       【考察】肥満ヘテロ群は肥満WT群に比べインスリン抵抗性が増強した。          これはIRS-1遺伝子変異保有ヒト肥満者解析報告と類似し,インスリン抵抗性発現に          IRS-1異常の関与が示唆された。 このページの最初に戻る
14.IRS-2 欠損マウスの肝臓においてSREBP-1の発現は上昇している ----------------------------------------------------------------------------      東大病院糖尿病代謝内科、三共株式会社 バイオメディカル研究所1)         戸辺一之、鈴木亮、青山昌司、山内敏正、加門淳司、寺内康夫、松井純二、         田中 純1)、阿部 学1)、大隅 潤1)、門脇孝 ----------------------------------------------------------------------------       【目的】2型糖尿病の発症には、インスリン分泌低下とインスリン抵抗性が重要である。          糖尿病の発症について検討するためインスリン受容体の主要な基質である          IRS-1,-2の欠損マウスを作製した。          IRS-1欠損マウスもIRS-2欠損マウスもともにインスリン抵抗性を呈するが、          膵β細胞が過形成を呈するIRS-1欠損マウスは、耐糖能正常のままとどまり、          膵β細胞が過形成がおこらないIRS-2欠損マウスは糖尿病を発症する。          この両マウスを用いて糖尿病発症の機構を明らかにするため、          肝臓での遺伝子発現をDNAマイクロアレーを用いて検討した。       【方法】IRS-1欠損マウスは、耐糖能正常のままとどまるが、          IRS-2欠損マウスは、10週齢よりブドウ糖負荷後の高血糖を呈する。          また、IRS-2欠損マウスは、6週齢において野生型に比べ、体脂肪量の増加と          血清レプチン値の上昇を認めレプチン抵抗性の存在を示した。          16週齢の野生型、IRS-1,-2欠損マウスの肝臓よりRNAを抽出し          Affymetrix11Kのマイクロアレーにて遺伝子発現を検討した       【結果・考察】16週齢IRS-2欠損マウスの肝臓においてSREBP-1およびその下流に          位置するATPクエン酸リアーゼ、spot14遺伝子などの発現が上昇していた。          SREBP-1の発現に関しては、ノーザンブロッティングで確認された。       【考察】SREBP-1は、肝臓においてその遺伝子発現がインスリンにより調節され、          脂肪酸合成やグルコキナーゼの発現を亢進させる転写因子である。          肝臓でのインスリン抵抗性を呈するIRS-2欠損マウスにおいてその発現が          上昇していることは、インスリン以外にSREBP-1の肝臓での発現を調節する          因子があると考えられた。          インスリンによる肝臓でのインスリン抵抗性や糖代謝と脂質代謝のクロストークを          考える上でSREBP-1およびその下流の遺伝子発現調節機序の解明は重要と考えられた。 このページの最初に戻る
15.SREBP(sterol regulatory element binding protein)1c     及びグルコキナーゼ遺伝子転写促進作用におけるIRS-1、IRS-2経路の関与 ----------------------------------------------------------------------------       神戸大学医学部第二内科          松本道宏、小川渉、阪上浩、井上啓、春日雅人 ----------------------------------------------------------------------------       インスリンによるSREBP1c及びGK遺伝子転写調節におけるIRS1経路とIRS2経路の      関与について解析した。       【結果】ラット初代培養肝細胞においてインスリン依存性のSREBP1c mRNAの増加は、          ドミナントネガティブ(D/N)型PI3Kにより抑制された。          IRS1-PI3K経路に対しD/N体として機能するIRS1の変異体の発現により、          インスリン依存性のSREBP1c遺伝子転写は抑制されたが、          Aktの活性化は抑制されなかった。          D/NAktにより内因性Akt活性を抑制すると、IRS1のチロシンリン酸化及びPI3Kとの結合が          増強したが、IRS2のチロシンリン酸化やPI3Kとの結合には影響がなかった。          すなわち、AktはIRS1-PI3K経路に選択的なnegative feedback機構に関与することが示唆された。          D/NAktによりIRS1-PI3K経路が増強した細胞では、インスリンによるSREBP1c転写促進作用も増強した。          すべての実験においてインスリンによるSREBP1cとGKの転写促進作用は平行した。       【結論】肝細胞におけるインスリン依存性のSREBP1c及びGK遺伝子転写促進作用は          IRS1-PI3K経路により制御され、インスリンによるAkt活性化はIRS2-PI3K経路により          強く依存しており、この経路はSREBP1c/GK遺伝子転写には関与しないことが示唆された。 このページの最初に戻る
16.日本人におけるPPARγ2遺伝子Pro12Ala変異の臨床的意義 ----------------------------------------------------------------------------      自治医科大学内分泌代謝科         草鹿育代、長坂昌一郎、中村友厚、石川三衛、斉藤寿一 ----------------------------------------------------------------------------       Pro12Ala変異はadipogenesisの障害をきたすとされる。      本研究は、同変異の臨床的意義をさらに明確にすることを目的とした。      対象は284人の既知2型糖尿病患者(年齢56±15歳)と非糖尿病者134人。      PCR-RFLP解析によりPro12Ala変異を同定した。      Pro12Ala変異の頻度は、非糖尿病で糖尿病より高い傾向(P=0.0780)。      高度肥満糖尿病(BMI≧30 kg/m2)では変異の頻度が高く(6.5%)、これらを除外すると、      変異の頻度は非糖尿病で糖尿病(BMI<30 kg/m2)より高かった(P=0.0462)。      糖尿病でPro12Ala変異を有する群では、中性脂肪が高値(P=0.0328)。      Pro12Ala変異は、高度肥満の無い状態では抗糖尿病的に働くが、高度肥満ではadipogenesisの障害、      lipotoxicityなどを介してその作用が減弱する可能性が示唆された。 このページの最初に戻る
17.日本人2型糖尿病におけるSyntaxin 1A遺伝子変異の検索 ----------------------------------------------------------------------------       和歌山県立医科大学 臨床検査医学、 第一内科1)、          角田圭子、中川貴之1)、古田浩人1)、南條輝志男1)、三家登喜夫 ----------------------------------------------------------------------------       【目的】膵β細胞においてインスリンの開口放出に関与する膜蛋白の1つで、          β細胞に特異的に局在するSyntaxin 1Aについて遺伝子変異を検索し、          2型糖尿病との関連性について検討を行った。       【対象】2型糖尿病患者186名(DM群)と非糖尿病者181名(N群)を対象とした。       【方法】ヒトSyntaxin 1A cDNAの塩基配列を参考にlong PCR法およびBAC systemを          用いてExon-Intron構造を決定し、その構造より蛋白翻訳領域をコードする          10個のExonについてPCR/SSCP法を用いて遺伝子変異の有無をスクリーニングした。       【結果】Syntaxin 1A遺伝子のExon 3にT/C変異(サイレント変異D68D(GAT→GAC))、          Intron 7に2つの変異(Exon 7のdonor siteから52bp下流にt→c、          Exon 8のacceptor siteから93bp上流にg→a)の3個のSNPを同定した。          いずれもDM群とN群の間でgenotypeの頻度、allele頻度とも有意差を認めなかったが、          D68DにおけるCのホモ接合体(CC)はDM群では16.1%(30名/186名)、          N群では11.0%(20名/181名)とDM群でやや高頻度の傾向を示した。          DM群における検討では、D68DにおいてCC群はその他、すなわちTとCの          ヘテロ接合体(TC)とTのホモ接合体(TT)を合わせた群に比し発症年齢が有意に低く          (40.10±1.48歳vs 44.19±0.57歳、mean±SE、p<0.01)、          また罹病期間10年、15年におけるインスリン治療患者の頻度はCC群では          TC+TT群に比し有意に高頻度(10年では39.1% vs 16.0%、p<0.05、          15年では57.1% vs 28.7%、p<0.05)であった。       【結語】Syntaxin 1A遺伝子のExon 3に2型糖尿病の発症年齢や臨床経過に関連するSNPを検出した。          本SNPのCのホモ接合体を有する患者では、ある期間経過するとインスリン治療の          頻度が高くなることより、本SNPが膵β細胞の疲弊と関連する可能性が示唆された。 このページの最初に戻る
18.糖尿病患者におけるSuperoxide Dismutase 2 (SOD2)遺伝子異常の検討 ----------------------------------------------------------------------------       和歌山県立医科大学第一内科1)、同生化学2)、同臨床検査医学3)          石亀 昌幸1)、古田 浩人1)、錦見 盛光2)、古田 眞智1)、若崎 久生1)、英 肇1)、          西 理宏1)、佐々木 秀行1)、三家 登喜夫3)、南條 輝志男1) ----------------------------------------------------------------------------       【目的】膵β細胞障害の機序の1つとして酸化ストレスの関与が考えられている。          またミトコンドリア異常による糖尿病も知られている。          今回我々は,膵β細胞で発現し,ミトコンドリアでの活性酸素除去に重要な          SOD2遺伝子異常が糖尿病の原因となりえるかを検討した。       【対象及び方法】対象は当科通院中のtype1糖尿病患者93人、type2糖尿病患者136人で、          SOD2遺伝子の全Exon(Exon1-5)をPCR/SSCP法でスクリーニングした。          異常がみられたものは直接シークエンス法にて遺伝子変異の有無を確認した。       【結果】type1糖尿病患者群で27番目のSerineがArginineに変わるS27R変異、ならびに、          153番目のAsparagineがSerineに変わるN153S変異の2つのミスセンス変異を認めた。          両変異は、type2糖尿病患者群ならびに非糖尿病者群117名においては認められなかった。       【考察】SOD2遺伝子はtype1糖尿病の発症に関係すると考えられている染色体上の          領域の1つであるIDDM5内に存在する。          今回type1糖尿病患者において2種類のミスセンス変異を認め、同遺伝子異常が          1型糖尿病発症に関与している可能性があると考えられた。 このページの最初に戻る
19.糖尿病とシアリダーゼ遺伝子 ----------------------------------------------------------------------------       東北大学分子代謝病態学分野糖尿病代謝科、         檜尾好徳、鈴木 進、平井完史、鈴木千登世、佐藤 譲       宮城県立がんセンター内科、         佐々木明徳、鈴木 裕       同研究所生化学         秦 敬子、和田 正、山口壹範、宮城妙子 ----------------------------------------------------------------------------       【目的と背景】最近我々はガングリオシド特異的に働く形質膜局在型シアリダーゼ遺伝子          過剰発現トランスジェニックマウス(TG)が、インスリン抵抗性症候群のフェノタイプを          示すことを発見した。          2型糖尿病、肥満、高血圧などではガングリオシド分子種の異常が報告されているが、          インスリン抵抗性症候群の病態の本質に関与するとは考えられていなかった。          今回、ガングリオシド糖鎖分子の分解の初期反応を司るシアリダーゼ遺伝子変異を          ヒトについて検索、解析したので報告する。       【TGの背景】本マウスは、ブドウ糖負荷試験において負荷後二時間血糖値、          負荷前後血清インスリン値が対象に比し有意に高値を示した(p<0.01)。          また、インスリン負荷試験でも対照では前値の27%まで血糖は低下したが,          TGでは2時間値で前値の80%までの低下にとどまった.          また、TGのラ氏島組織像はHE染色で過形成を示した.          インスリン抗体を用いた免疫染色では広範囲な染色陽性が見られた.          インスリン受容体におけるインスリン刺激リン酸化は対照に比し低値を示したが          骨格筋におけるグリコーゲン合成酵素活性は、インスリン刺激前後で対照に比し          活性低下を示した.          以上より、シアリダーゼ遺伝子と糖尿病の発症、進展が関連することが予想され,          以下に示すシアリダーゼ遺伝子異常スクリーニングを行った.       【対象と方法】当科外来通院中の糖尿病患者250例(D群)および          非糖尿病正常対照213例(N群)より説明と同意のもとに採取した          血液サンプルからゲノムDNAを抽出し、形質膜局在型サリダーゼ遺伝子特異的          プライマーを用いてPCRダイレクトシーケンシングにて遺伝子変異を検索、          また同定された遺伝子多型に関してはABIシステムSNaPshotも用いながら多型解析を施行した。       【結果】エクソン3コドン46にT/C(Ser)多型を同定した。          この多型はD群とN群でアリル頻度が異なり、D群でアリルTの頻度がN群に比し          有意に高値を示した(D群:C 0.596、T 0.404、N群:C 0.751、T 0.249)(p<0.001)。          また、D群の1例において、エクソン3コドン44において変異(AAG to AGG)を同定した。          この変異はアミノ酸置換(Lys to Arg)をともなった(K44R)。          このK44R変異はD群の他の患者およびN群のすべての対照に認められなかった。          K44Rの発端者は、39歳、男性で35歳発症の血糖コントロール不良の          1型糖尿病患者であった(HbA1c 12.8%、抗GAD抗体 177U/ml)。       【考察】シアル酸とインスリンシグナルとの関連についてはさまざまな報告がなされており、          インスリン受容体からシアル酸を除去するとインスリン作用低下により          インスリン抵抗性をきたすと言われている。          また、ガングリオシドは1型糖尿病において抗原提示に関与したり、          あるいはその1つであるGM2は膵ラ氏島特異的に発現しIgG自己抗体の          ターゲットとなるといわれている。          このようにガングリオシド、シアル酸およびシアリダーゼは2型および          1型糖尿病の双方に密接に関連すると考えられる。          今回の結果のうち、多型アリル頻度差は前者と、またシアリダーゼ遺伝子変異の          認められた例は後者と関連するものと考えられた。       【結語】シアリダーゼ遺伝子の多型および変異は糖尿病の発症機序に関連する可能性が示唆された。 このページの最初に戻る
20.Dahl食塩感受性高血圧ラットにおけるインスリン抵抗性の分子機構 ----------------------------------------------------------------------------       東京大学腎臓内分泌内科1)、朝日生命成人病研究所2)、東京大学糖尿病代謝内科3)          荻原健英2)、浅野知一郎3)、安東克之1)、高橋克敏1)、千葉優子1)、迫田秀之2)、          穴井元暢3)、菊池方利2)、藤田敏郎1) ----------------------------------------------------------------------------       高血圧はインスリン抵抗性を引き起こす重要な誘因の一つと考えられている。      我々は、高血圧モデルラットであるDahl-Sラットとそのコントロール動物であるDahl-Rラットを用い、      1)高インスリン正常血糖クランプおよび単離筋の糖取りこみ測定により        インスリン抵抗性の評価を行った。        その結果、高食塩食(8%NaCl)を負荷したDahl-Sラットでは、正常食負荷Dahl-Sラットに        比較してクランプにてGlucose Infusion Rate (GIR)が68%、単離筋の糖取り込みも72%と        いずれも低下した。        一方、Dahl-Rラットでは高食塩食を負荷した場合でも、血圧やインスリン感受性に        有意な変化を認めなかった。        したがって食塩感受性高血圧の進展に伴って、インスリン抵抗性が増大することが確認された。      2)次に、門脈よりインスリンを注入し、高食塩食のインスリンのシグナル伝達への影響を検討した。        すると、高食塩食を負荷したDahl-Sラットでは、筋肉と肝臓の両方とも、インスリン抵抗性が        存在するにもかかわらず、インスリンによるIRS-1/2/3のリン酸化やそれらに結合する        PI 3-キナーゼ活性化が正常食負荷Dahl-Sラット以上に亢進していた。        すなわち、Dahl-Sラットにおけるインスリン抵抗性の機序は、PI 3-キナーゼの活性化以降の        下流に存在することが示唆された。      3)このインスリン抵抗性にsuperoxide dismutase mimeticであるtempolを投与したところ、        血圧には有意な変化を認めなかったが、GIR、単離筋の糖取り込みの低下はほぼ        正常レベルまで改善した。        すなわち、高食塩食に伴うインスリン抵抗性には酸化ストレスが関与している可能性が示唆された。 このページの最初に戻る
21.Dehydroepiandrosterone(DHEA)による耐糖能改善機序の検討 ----------------------------------------------------------------------------       長浜赤十字病院 岐阜大学総合診療部1) 岐阜大学第3内科2)          梶田和男、石塚達夫1)、三浦淳2)、石澤正剛2)、山本頼綱2)、安田圭吾2) ----------------------------------------------------------------------------       DHEAによる耐糖能改善の機序を、糖尿病モデル動物、脂肪細胞を用いて検討し,      インスリンシグナル伝達に及ぼす影響につき検討した.      生後8週間のGKラット、および16週のOLETFラットに、0.4%DHEAを2週間投与した。      GKラットでは体重、血糖、血漿IRIに有意差はなかった.      一方OTETFラットではDHEA投与により、体重の減少、血糖の改善が認められたが,      血漿IRIには有意な変化はなかった.      脂肪組織の重量は、傍睾丸脂肪で有意に低下しており,皮下脂肪、腸間膜脂肪、傍腎脂肪でも      減少の傾向であった.      しかし脂肪細胞の大きさには変化なかった.      各脂肪細胞におけるPPARγの発現を見ると、OLETFではLETOに比較して発現が      増加していたが、DHEA投与によりこれが減少していた.      またOLTEFにおける血漿レプチン濃度は、DHEA投与により減少しており,DHEAによる      血糖低下は、脂肪量の低下によると考えられた.      また、Wisterラットの遊離脂肪細胞を用いて、DHEAによる糖輸送、PI3-kinase、      conventional PKC(cPKC)およびatypical PKC(aPKC)への影響を検討した.      100nMDHEAは単独で糖輸送を引き起こし,また10nMを最大に、DHEA60分の前処置により、      インスリンによる糖取り込みを増強した.      DHEAは単独で免疫沈降で得られたcPKC、aPKCをdexamethasone(Dexa)と同程度に活性化した.      しかし細胞内PKCζはDexaに比べ、DHEAでより強く活性化された。      DHEA5分の刺激により、脂肪細胞の抗phosuphotyrosine抗体免疫沈降物における      PI3-kinase活性は上昇したが、Dexaではこれは認められなかった.      DHEAによる糖取り込みはcPKC inhibitorでは影響されなかったが、wortmannin、      myristoylated PKCζpseudosubstrateの前処置で抑制され、DHEAによる糖取り込みに、      インスリンと同様PI3-kinase、aPKCが関与していると考えられた.      これを確かめるため、wild typeとdominant negative PKCζを一過性に過剰発現した      脂肪細胞を作成し検討したところ、DHEAによる糖輸送は、wild typeの過剰発現で増強したが、      dominant negativeで消失していた.      (結論)DHEAは肥満を伴う2型糖尿病モデル動物の血糖を改善し,一方でPI3-kinase、          aPKCを活性化して糖取り込みを促進する,インスリン類似の効果を示した. このページの最初に戻る
22.インスリン抵抗性における脂肪酸代謝異常とFatty acid transport protein4遺伝子の発現変移 ----------------------------------------------------------------------------       東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科1),DNA医学研究所遺伝子治療研究部門2)          根本昌実1),佐々木 敬1),2),山前浩一郎2),藤本 啓2),衛藤義勝2),田嶼尚子1) ----------------------------------------------------------------------------       【目的】インスリン抵抗性状態では脂肪組織から脂肪酸放出が増大し、          肝臓が取り込むことで糖新生の増大を来す.          Fatty acid transport protein (FATP)4は長鎖脂肪酸輸送膜蛋白であり、          脂肪組織・肝臓・骨格筋での発現が認められることから脂肪酸代謝異常への関与が考えられる.          このメカニズムを知るためにFATP4遺伝子発現の変移とインスリン抵抗性状態とが          関連しているか否かを検討した.       【方法】         1)13週齢のob/ob(ob)とC57BL/6J (B6)の脂肪組織・肝臓・骨格筋からtotal RNAを抽出し、          ノーザンブロット解析によりFATP4mRNA量を調べた.          またチアゾリジン誘導体(TZD)投与群と非投与群とを比較した.         2)インスリン作用によるFATP4遺伝子発現の変移を明らかにするために、          絶食時と摂餌時のB6の脂肪組織のFATP4mRNA量を比較した.          また、3T3-L1細胞の培養液中のインスリン濃度を変化させて比較した.       【成績】FATP4mRNA量は、         1)脂肪組織ではobで高値を示したが、TZD投与による効果は認めなかった.          骨格筋での変化は認められなかった.          肝臓ではobでTZD投与により低下したが、このことはB6でも同様であった.         2)脂肪組織においては摂餌による影響はないが、脂肪細胞ではインスリン濃度に          依存して低下する傾向を示した.      【結語】インスリン抵抗性状態における高脂肪酸血症の原因としては脂肪組織に          おけるFATP4遺伝子の発現が抑制されず,脂肪酸放出の増大が考えられた. このページの最初に戻る
23.UCP3の遺伝子発現調節と機能の解析 ----------------------------------------------------------------------------       京都大学臨床病態医科学・第2内科          孫 徹、細田公則、松田淳一、藤倉純二、岩倉浩、小川佳宏、林達也、         井上元、吉政康直、中尾一和 ----------------------------------------------------------------------------       UCP3はエネルギー代謝に重要な骨格筋に高濃度に発現する脱共役蛋白であり、      糖尿病・肥満でのその病態生理的意識が注目されている。       我々はUCP3の遺伝子発現調節を解明する目的でL6細胞の系でUCP3遺伝子発現調節を検討した。      L6細胞において、UCP3遺伝子発現はPPARdアゴニストにより1929±43%に上昇したが、      PPARa、PPARgのアゴニストではともに有意な変化を示さなかったことより、      UCP3遺伝子発現調節でのPPARdの関与が示唆された。       一方で、我々はUCP3の機能を解明する目的で骨格筋特異的UCP3過剰発現マウス(以下Tgマウス)を      作成した。マウス骨格筋creatinine kinase のプロモーターにマウスUCP3cDNAの翻訳領域を      つないだコンストラクトを用い、複数系統のTgマウスを得た。      UCP3の最も高発現の系統として、UCP3のmRNA、蛋白ともに対照の約18倍の系統と      約15倍の系統が得られた。      mRNAで18倍の増加はUCP3の生理的な発現増加の上限である。      15倍の系統の体重は対照と有意差がなかった。18倍の系統は、9・15週齢では      有意に対照と比べて体重が低かったが(15週;28.7±0.5g vs. 26.7±0.5g、P>0.01)、      それ以降は低い傾向のみだった。最高発現の18倍の系統をさらに解析すると、      摂取量と酸素消費量は有意差を示さなかった。      血清グルコースは低い傾向にあったが、有意差を示さなかった。      血清インスリン、トリグリセライド、遊離脂肪酸、総コレステロールも有意差を示さなかった。      腹腔内グルコース負荷試験では、対照に比べ血糖の120分値がやや低い傾向だったが、有意差はなかった。      insulin tolerance test では両者にインスリン感受性の差を認めなかった。      組織学的検査でも対照との差を認めなかった。      この系統を遺伝性糖尿病肥満モデルマウスのKKAуマウスと交配させたが、      UCP3 Tg(+)/Aу(+)の体重は Tg(-)/Aу(+)に比べ低い傾向であるが有意ではなく、      糖代謝に関しても差はなかった。       最近Claphamらがa-actinのプロモーターで骨格筋に対照の約70倍に過剰発現させた      マウスを作成し、体重の有意な減少、酸素消費量の増加、糖代謝の改善を報告した。      しかしUCP3ノックアウトマウスにエネルギー代謝に関する表現型が認められないこと、      生理的範囲内の上限の18倍の発現量の本研究のTgマウスで著名な表現型が認められないこと      から考えると、UCP3のエネルギー代謝に関する寄与は大きくないと考えられた。 このページの最初に戻る
24.VEGF遺伝子プロモーター多型は糖尿病網膜症と関連する ----------------------------------------------------------------------------       埼玉医科大学第四内科          粟田卓也、井上清彰、大久保智子、栗原 進、今牧啓二、溝谷香寿美、         後藤誠一、横田健介、冨樫厚仁、井上郁夫、片山茂裕 ----------------------------------------------------------------------------      【目的】血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)は          血管透過性亢進および血管新生の主要なメディエーターであり、          糖尿病網膜症の発症および進展に中心的役割を果たしていることが想定されている。          本研究においては、糖尿病網膜症における役割を検討するためにVEGF遺伝子の          プロモーター領域の解析を行った。      【方法および結果】         (1) 多型のスクリーニング          糖尿病16例について、プロモーター領域をPCR-direct sequencingにより          スクリーニングしたところ、4つの多型を発見した:G(-1877)A, T(-1498)C, G(-1190)A,G(-1154)A。          このうち、G(-1877)Aはまれな変異と思われたが、その他の多型の頻度は高く、          大きく以下の3つのハプロタイプを形成するものと考えられた:-1498T/1190G/-1154G (wild-type)、          -1498C/-1190A/-1154G (variant-1)、-1498C/-1190A/-1154A (variant-2)。         (2) Luciferase Assayによるプロモーター多型の機能解析          3種の細胞株(HeLa-S3, COS-1, NIH-3T3)における検討で、          wild-typeの転写活性は他のvariant-1およびvariant-2の転写活性に比較して有意に高かった          (それぞれ、P=0.0054, P=0.0286)。         (3) 糖尿病網膜症との関連の検討          2型糖尿病患者187例における検討では、T(-1498)C 多型およびG(-1190)A多型の          -1498TT/-1190GG genotype(この2つの多型は完全な連鎖不平衡にあり、          wild-type alleleのホモにあたる)が糖尿病網膜症を有する群で、糖尿病網膜症無しの群と          比較して、有意に増加していた。          さらに、多重ロジスティック回帰分析による検討では、-1498TT/-1190GG genotypeは、          それ以外のgenotypeに比較して、糖尿病網膜症発症の有意な危険因子であり、          オッズ比は3.25(95% CI 1.45-7.29, P=0.0042)であった。      【結論】これらの成績は、VEGFプロモーター多型は糖尿病網膜症の病因に寄与し、         また糖尿病網膜症の遺伝的リスクファクターであることを示唆している。 このページの最初に戻る
25.ラット大動脈平滑筋細胞の増殖における SHP2 の役割について ----------------------------------------------------------------------------       千葉大学医学部第二内科、熊本大学医学部第二生化学1)          関直人、橋本尚武、佐野裕之1)、鈴木義史、堀内正公1)、齋藤康 ----------------------------------------------------------------------------      【目的】動脈硬化症の成因の一つに大動脈平滑筋細胞の増殖能の亢進がいわれている。          ラット大動脈平滑筋細胞 (SMC) の増殖における src homology 2 containing protein           tyrosine phosphatase 2 (SHP2) の役割を検討した。      【方法及び結果】         1. 1 g/l geneticin で selection して単クローン化した SMC を用いて、          内因性の SHP2 の発現量と FBS , PDGF, IGF-1 刺激時の増殖能の関係を検討し、          SHP2 の発現量と増殖能との間に正の相関を得た。         2. SMC に SHP2 を transient に overexpression し、FBS の刺激時の増殖能の亢進を認めた。         3. AGE 刺激で SMC の増殖能の亢進及び SHP2 活性の上昇を認めた。      【結論】糖尿病で生成される最終糖化産物や、その他の増殖因子による SMC の増殖能の亢進に          SHP2 が関与し、動脈硬化症進展における重要な役割を果たしている可能性が考えられた。 このページの最初に戻る
26.肥満発症におけるGIPシグナルの意義  ----------------------------------------------------------------------------      京都大学病態代謝栄養学         山田祐一郎、宮脇一真、井原 裕、黒瀬 健、長嶋一昭、黒江 彰、月山克史         渡辺理江、稲田明理、坂 信広、下和田加奈、清野 裕 ---------------------------------------------------------------------------- このページの最初に戻る