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2000.02.28 | 抄録集を掲載いたしました。 |
1.アルドースリダクターゼ(AR)遺伝子上流域のACリピート22回(Z−4 allele)は
AR遺伝子の転写活性を抑制する可能性がある。
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山梨医科大学第三内科
池岸幸伸、多和田真人、会田薫、女屋敏正
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(目的)我々は以前に、
1.増殖性網膜症でAC repeat 22回(Z-4 allele)が有意に多い事、
2. 同alleleをもつ患者ではAR蛋白量が有意に高い事
を報告した。今回 AC repeat の回数が転写活性に影響するかどうかを検討した。
(方法)AR遺伝子上流域 -1991bp〜+55bpをNhe IとXho Iのリンカーをもつプライマーを用いPCRで増幅、
pGL3 basicに組み込み、次にAC repeat部分を含むAR遺伝子上流域 (-2106〜-1969)を
Bam H IとSal Iのリンカーをもつプライマーを用いてPCRで増幅しそれぞれをさきほどの
コンストラクトの下流に組み込んだ。作成したコンストラクトはAC repeat部分を含まないものと
AC repeat 22〜25回の5種類で、それらと thymidine kinaseをプロモータ領域にもつ
Renilla luciferase vectorをヒト網膜上皮細胞由来のRPE47細胞へco-transfectionし、
luciferase活性を測定した。
(結果) 5mM glucose下では AC repeat22回を含むrelative-luciferase活性は、
それ以外のAC repeatなしと AC repeat23〜25回を含むものと比べて有意に高値を示した。
150mM glucose下でもほぼ同様の結果であった。
(結論)アルドースリダクターゼ遺伝子上流域のAC repeat 22回(Z-4 allele)はAR遺伝子の転写活性を
促進する事が推測された。
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2.アデノウイルスを用いたマンガンSOD遺伝子導入内皮細胞の高ブドウ糖濃度下細胞走化能の検討
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東京医科大学第三内科1)、Mayo Clinic2)
佐藤潤一1)、金澤真雄1)、能登谷洋子1)、林徹1)、Timothy O'Brien2)
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酸化ストレスは糖尿病性合併症の成因として重要である。
高血糖はフリーラジカル産生を増大させ、それが糖尿病における内皮細胞障害のメディエーターと
考えられている。高血糖は内皮細胞走化能を低下させると言われているが、この過程における
フリーラジカルの役割については定かとはなっていない。
〔目的〕フリーラジカルスカベンジャーであるマンガンSODの遺伝子を内皮細胞に導入し
それを過剰発現させ、高ブドウ糖濃度下における細胞走化能低下を抑制するかどうかを検討した。
ヒト臍帯静脈内皮細胞(Huvec)単層培養創傷モデルを用いて細胞走化能を測定した。
Adenovirus encoding βgal (AdβGal)またはAdenovirus encoding MnSOD (AdMnSOD) を
Huvec に導入、或いはコントロールとしてのPBSを添加した後、ブドウ糖非添加培養液にて
48時間培養を行った。
細胞スクレーパーを用いて単層培養創傷モデルを作成した後、生理的(5.5mM glucose; NG)または
高濃度(28mM glucose; HG)ブドウ糖添加培養液を加え5時間培養した。
細胞走化能は目隠しテストにて検鏡、移動した細胞数を測定、トリプリケートの平均値を用いた(n=5)。
〔結果〕コントロール細胞において高ブドウ糖濃度下で細胞走化能は有意に低下した
(NG;55.4±32.2 cell cells/well vs.HG;28.4±18.5 cells/well, p<0.05)。
またAdβGal群でも同様な傾向であった(NG;40.6±47.2 vs. HG;20.5±18.0, p=0.25)。
さらにAdMnSOD群でも高ブドウ糖濃度下において細胞走化能の低下が認められた
(NG;27.8±17.3 vs. HG;14.9±15.4, p,0.05)。
〔考察〕Huvecでは高ブドウ糖濃度下において細胞走化能の低下が認められ、マンガンSODを過剰に発現させた
細胞においてもそれは抑制されなかった。以上の結果より、高ブドウ糖濃度下における細胞走化能が
低下にMnSODが関与する可能性は低いと推測された。
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3.インスリン抵抗性に伴う血管内皮障害の分子機構
−大動脈壁ビオプテリン代謝と内皮型NO合成酵素活性異常−
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滋賀医科大学第三内科1) 、同薬理2)、千葉大学園芸学部生物化学3)
篠崎一哉1)、西尾善彦1)、岡村富夫2)、政田政弘3)、前川聡1)、柏木厚典1)、戸田昇2)、吉川隆一1)
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【目的】インスリン抵抗性(IR)状態では、内皮依存性血管弛緩反応の異常が報告されているが、
その機構は明らかではない。そこで、IRラットにおける内皮機能を検討するとともに、
大動脈壁でのNOおよびスーパーオキシドアニオン(O2-)生成量を測定し、さらにそれらを
修飾する因子について検討した。
【方法】雄性Sprague-Dawleyラットを用い、Fructose食負荷によりIRに伴う内因性の高インスリン血症を示す
モデル(F群)と通常食で飼育した対照群(C群)を作製した。4週後に胸部大動脈を採取し、
・等尺性張力試験による弛緩反応の記録、
・内皮型NO合成酵素(eNOS)活性の測定、
・RNase protection assayを用いたeNOS mRNA量の検討、
・高感度NO分析器(化学発光法)を用いたNO生成量の測定、
・ルシゲニン化学発光法を用いたO2-生成量の測定、
・HPLC法を用いたNOSの補酵素含有量の測定を行った。
【結果】・アセチルコリンおよびカルシウムイオノフォア(A23187)による内皮依存性の血管弛緩反応は、
F群ではC群に比べて有意の低下を示し、この低下はO2-の捕捉剤であるSOD処置により著明に改善した。
・F群のeNOS活性は、C群と比較し58%に低下したが、eNOS mRNA量は両群間で有意差を認めなかった。
・F群では、A23187刺激下でのNO生成量はC群に比べて59%低下したが、NOSの活性型の補酵素である
テトラヒドロビオプテリン(1μM BH4)添加によりNO産生は正常化した。
・F群のA23187刺激下のO2-生成量は、C群と比較し約4倍の高値を示した。
一方、NOSの阻害薬であるL-NAME(10μM)添加がO2-生成量を有意に抑制したことより、
eNOSからのO2-生成が増加することが示唆された。また、同様にF群のA23187刺激下の
O2-生成亢進は、BH4添加により有意に低下した。
・F群の血管内皮BH4含量は、C群と比較し有意に低値であり、逆に、酸化(不活性)型の
ビオプテリンであるジヒドロビオプテリン(BH2)含量は有意に高値であった。
【考察】IR状態では、血管内皮でのビオプテリン代謝異常を介して、血管内皮でのeNOS活性の異常による
NO産生の低下とO2-の産生の亢進を生じることにより、内皮依存性の血管弛緩反応障害を
きたすことが明らかとなった。
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4.高血圧によるインスリン抵抗性のメカニズム
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東京大学腎内分泌内科1)、糖尿病代謝内科2)、朝日生命成人病研究所3)
荻原健英3)、菊池方利3)、穴井元暢2)、迫田秀之2)、藤城緑2)、
関根信夫1)、千葉優子1)、安藤克之1)、浅野知一郎2)、藤田敏郎1)
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2型糖尿病患者の約1/3には、高血圧の合併が認められることが報告されている。
これは糖尿病による動脈硬化に起因して高血圧が引き起こされるだけでなく、
逆に高血圧によってインスリン感受性が低下し糖尿病の発症や悪化が導かれるという両者の要因によると
考えられる。高血圧の原因はいまだ不明の部分が多いが、糖尿病患者では食塩負荷に
対する血圧上昇が亢進している例が多いと報告されている。
また、レニン・アンギオテンシン系の亢進も高血圧の多くを占める原因と考えられている。
そこで、高血圧によるインスリン抵抗性の機序を研究するため、以下のモデルラットを作製した。
@ Sham ope(コントロール)群 、
A angiotensin II投与群、
B angiotensin II + 8%NaCl食(食塩負荷)投与群、
C angiotensin II + 8%NaCl食 + candesartan(AT1拮抗薬)、angiotensin IIは
15ng/minを iv(浸透圧ミニポンプ)で、candesartanは10mg/kg/日を経口で投与した。
これらのラットのインスリン抵抗性をglucose clamp法によって測定したところ、
ABCでglucose infusion rateの低下(40-60%)が認められた。
さらに門脈よりインスリンを注入し、肝臓、筋肉と脂肪組織におけるインスリン受容体のリン酸化、
IRS-1/2/3のリン酸化とこれらに結合しているPI-3キナーゼの蛋白量や活性を測定した。
その結果、ABCでリン酸化の増加と、PI 3-キナーゼ活性の増加が認められた。
以上より、高血圧ラットではインスリン抵抗性の増大が認められたが、それにもかかわらず
PI 3-キナーゼ活性の増加があり、細胞内インスリン情報伝達の障害部位は
PI 3-キナーゼ以降の段階であると考えられた。
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5.TNF-α遺伝子5'上流多型の1型糖尿病との相関とその意義について
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大分医科大学第一内科1)、東京医科歯科大学難治疾患研究所2)、久留米大学免疫学3)
浜口和之1)、木村彰方2)、関直子3)、樋口貴文3)、楠田洋一郎1)、桶田俊光1)、伊東恭悟3)、坂田利家1)
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TNF-αは免疫機能や炎症反応において重要な役割を果たしている。
自己免疫疾患である1型糖尿病でもTNF-αはその成因に深く関わっていると考えられる。
また、TNF-α遺伝子座は1型糖尿病に感受性を有するHLA遺伝子複合体領域にあり、
TNF-α遺伝子それ自体が疾患感受性遺伝子である可能性もある。
これまで、欧米白人の1型糖尿病について解析が進められてきたが、日本人においては
変異対立遺伝子の頻度が著しく低く、有効な解析がなされていなかった。
最近、TNF-α遺伝子5'上流に日本人で比較的頻度の高い多型(-857T、-863A、-1031C)が
報告されたため、我々は日本人1型糖尿病の集団でこれら遺伝子多型との相関を検討した。
対象は136人の1型糖尿病と300人の健常者である。
-857Tと-863A/-1031Cはオッズ比がそれぞれ2.2、2.0と1型糖尿病で有意に増加していた。
次に、これらの対立遺伝子の増加がそれ自体1型糖尿病と相関するのか、HLAの特定の遺伝子座との
連鎖不平衡によるものかを検討するために2遺伝子座解析を施行した。
その結果、-857Tは1型糖尿病で頻度の増加するDRB1*0405やB54を保有している
対象群の中では有意な増加を認めなかった。また、-863A/-1031CもB61を保有している対象群の中では
有意な増加を認めなかった。
すなわち、これらの対立遺伝子はHLAのDRB1やB遺伝子座との連鎖不平衡で増加していると考えられた。
今回初めて日本人1型糖尿病と相関するTNF-α遺伝子5'上流多型を見出したが、
これら多型の1型糖尿病への関与は二次的であると考えられる。
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6.多因子疾患の機能遺伝学:1型糖尿病遺伝子Idd3の個体レベルにおける解析
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大阪大学加齢医学1) シオノギ製薬ACセンター2)
池上博司1)、牧野進2)、川口義彦1)、藤澤智己1)、荻原俊男1)
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【目的】遺伝解析により見出された候補遺伝子多型が多因子疾患の疾患感受性に
真に関与するか否かを個体レベルで証明するには、
(1) 候補遺伝子多型のみが同一で周辺の遺伝子多型は異なる微細組換え染色体、ならびに、
(2) ゲノムの中で注目する遺伝子領域のみを効率よく置換する方法、
が不可欠である。今回、我々はNODマウスの1型糖尿病遺伝子Idd3の候補
インターロイキン2(Il2)に関して、微細組換え染色体をmarker-assisted congenic法により
導入したコンジェニックマウスを作出し、Il2がIdd3の本体であるか否かの直接証明を試みた。
【方法】NOD関連7系統においてIl2の塩基配列がNODと同一で、かつ周辺の多型マーカーが
NODと異なる微細組換え体である系統(IIS)をdonor系統とし、
NODをrecipient系統としてコンジェニックマウスを作出した。
コンジェニックの作成は背景遺伝子の置換をモニターしながら行う
marker-assisted congenic法を用いて、正確かつ迅速に行った。
作成したコンジェニックマウス(NOD.IIS-Il2)の1型糖尿病発症経過をモニターし、
NODタイプのIl2アリルが1型糖尿病の疾患感受性遺伝子の本体であるか否かを決定した。
【結果・考察】Marker-assisted congenic法により背景遺伝子の完全置換が正確にかつ
通常の倍のスピード(N5)で完成した。
NOD.IIS-Il2コンジェニックマウスはホモ個体、ヘテロ個体のいずれに関してもNODアリルの
ホモ個体と同等の発症率・発症日齢を示した。
コントロールアリルを導入したコンジェニックマウスにおける著明な
発症抑制・遅延とは対照的に、NOD.IIS-Il2がNODと同等に1型糖尿病を発症したことから、
Il2が1型糖尿病の疾患感受性遺伝子そのものであることが強く示唆された。
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7.レトロウイルスベクターを用いたインスリン分泌脂肪細胞の作成とその分泌能の検討
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東京慈恵会医科大学内科学講座第31)、同大学DNA医学研究所遺伝子治療研究部門2)
山前浩一郎1)2)、佐々木敬1)2)、藤本啓1)2)、根本昌実1)、衛藤義勝2)、田嶼尚子1)、
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【目的】1型糖尿病における遺伝子治療の基礎的検討として、
1)脂肪細胞にインスリン遺伝子を移入した際のインスリン分泌能力の検討、
2)そのインスリン分泌の調節法の開発、を目的とした.
【方法】furinで切断可能なヒト・インスリンを生成するcDNAを、レトロウイルスベクターにより
マウス前脂肪細胞3T3-L1へ移入した (3T3-L1INS/fur).
この3T3-L1INS/furを脂肪細胞に分化させ、インスリン分泌量の変化を経時的に観察した.
分化誘導にチアゾリジン(トログリタゾン20μM、TZD)を用いてこの分化と
インスリン分泌との関連を確認した.
調節性の分泌過程はSNARE蛋白遺伝子発現の検討によった.
そのためにt-SNAREとしてSNAP23、v-SNAREとしてVAMP2の発現をRT-PCRによって確認した.
【成績】未分化なL1-ins/furからは0.057mean fmol±0.10 SD/106 cells/48hrのインスリン分泌を認めた.
これはD8で1.08 fmol±0.10、D12では1.48 fmol±0.07と経時的に有意な増加を示し(p<0.05)、
脂肪細胞の分化とインスリン分泌能との関連を認めた.D12でのOil-Red-O染色では
TZD添加群は非添加群と比べて有意に多数の分化した細胞を認め、TZDによる分化の促進を示した.
インスリン分泌についてはTZDを添加したD8では有意差を認めなかったが、
D12では1.87 fmol±0.07とTZD非添加群よりもさらに亢進しており(p<0.005)、
分化とインスリン分泌能との関連をTZDによっても確認した.
RT-PCRによるSNAP23, VAMP2 遺伝子発現は、3T3-L1INS/furにおいて
分化の前後を問わずmessageを認め、SNARE蛋白が脂肪細胞における顕著な
インスリン分泌能に関与していることを示唆した.
【結論】分化した脂肪細胞はインスリン分泌細胞として高い能力を持つことが判明した.
さらにSNARE蛋白がtransgeneからのインスリン分泌にも関与し、
開口放出のステップにおける分泌調節も行える可能性を示唆した.
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8.GIP受容体欠損マウスにおける耐糖能障害
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京都大学病態代謝栄養学1)、京都大学人間環境学研究科2)、千葉大学研究科分子機能制御3)、
大阪大学医学研究科栄養学4)、三和科学研究所5)
山田祐一郎1)、宮脇一真1)、井原裕1)、久保田章1)、藤本新平1)、梶川麻里子1)、
津浦佳之1)、坂信広2)、津田謹輔2)、矢野秀樹3)、丹波仁史4)、宮崎純一4)、
城森孝仁5)、清野裕1)
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GIP(gastric inhibitory polypeptide)は、上部消化管のK細胞からグルコースや脂肪の摂取が
刺激となり分泌され、膵β細胞のGIP受容体に結合しインスリン分泌を促進することにより、
インクレチンの一つと想定されている。
今回、GIP受容体欠損マウスを作製し、GIP作用不全と糖尿病発症との関連を検討した。
GIP受容体マウスは、GIP受容体の第4、第5エクソンをネオマイシン耐性遺伝子に置換することにより作製した。
ホモ欠損マウスの単離ラ氏島を用いた検討で、GIPのインスリン分泌促進作用は消失し、
機能的にGIP受容体の欠損を確認した。
腹腔内グルコース負荷では、ホモ欠損マウスは野生型マウスと差異を認めないのに対し、
経口グルコース負荷試験では明らかな耐糖能障害を示し、
これはインスリンの初期分泌の障害によることが明らかとなった。
次に、3週間の高脂肪食負荷によってインスリン抵抗性を惹起したところ、
野生型では通常食負荷群に比しインスリン分泌の亢進が見られ、
インスリン抵抗性を代償し耐糖能に変化を認めなかったのに対し、
欠損マウスでは代償的なインスリン分泌の亢進が見られず、耐糖能が有意に増悪した。
このように、GIPを介したインスリン分泌が特に食後早期の血糖コントロールに重要であり、
またGIPがインスリン需要増大時のインスリン分泌亢進に必須であることが示唆された。
したがって、GIPはインクレチンとして生体のhomeostasisに重要な役割を担い、
2型糖尿病発症と関連することが示唆された。
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9.新生児低血糖症患者のSUR1遺伝子変異は、NBFへのアデニンヌクレオチドの協調的結合を障害する
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山口大学第三内科1)、京都大学大学院農学研究科2)
谷澤幸生1)、松田万幸1)、松尾道憲2)、太田康晴1)、井上寛1)、植田和光2)、岡芳知1)
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β細胞のATP感受性Kチャンネル(KATP)は,細胞内ATP/ADP比により開閉が制御される.
チャネルサブユニットであるKir6.2へのATPの結合によりチャンネルは閉鎖され,
調節サブユニットであるSUR1はADPによるチャネルの解放に重要であることが示唆されている.
我々は,日本人新生児低血糖症(persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy, PHHI)
患者17例 について,SUR1遺伝子の解析を行い,nucleotide binding fold (NBF)-2に
2種類のミスセンス変異(R1420C, R1436Q)を同定した.
これらの変異SUR1とKir6.2をCOS-7細胞で共発現,KATPを再構成し,
oligomycin,2-deoxyglucose存在下(metabolic inhibition)で
Rbの細胞内からの流出を測定することによりKATPの機能解析を行った.
KATP-SUR1(1436Q)を発現したCOS-7細胞では,metabolic inhibitionによるRbの流出の
有意な増加は認められず,機能的KATPが再構成されないことが示唆された.
ウエスタン解析では,SUR1(1436Q)のCOS-7細胞膜分画での発現が著しく減少しており,
SUR1(1436Q)タンパクの不安定性または膜への輸送障害が示唆された.
一方,KATP-SUR1(R1420C)を発現するCOS-7細胞ではRbの流出は野生型KATPを発現するものの
約50%に減少していた.
このmetabolic inhibitionによるKATPの活性化障害の機構を解析するため,
SUR1(R1420C)に対するアデニンヌクレオチドの協調的結合について解析した.
NBF-1へのATPの高親和性結合は,SUR1(R1420C)と野生型との間に差を認めなかった.
しかしながら,MgADP及びMgATPによるATPのNBF-1への結合の安定化は,
SUR1(R1420C)において著しく障害されていた.
KATPの開放のためには,SUR1のNBF-1にATPが,
NBF-2にADPがそれぞれ協調的に結合することが必要であることが示唆されている。
我々の結果は、SUR1(R1420C)ではこの協調的結合が障害されるためKATPの開放が障害されるものと
推測され,SUR1の変異の一部がこのような機序でインスリン分泌調節異常をきたしうることに
初めて生化学的証左を与えるものである.
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10.日本人糖尿病患者における hepatocyte nuclear factor-3β(HNFー3β)遺伝子異常の検討
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大阪大学分子制御内科(第二内科)1)、群馬大学生体調節研究所2)
山縣和也1)、朱倩1)、山田思郎1)、塚原弥生1)、吉内一正1)、森脇信1)、楊勤1)、
難波光義1)、宮川潤一郎1)、花房俊昭1)、武田純2)、松澤佑次1)
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「背景」膵β細胞に発現している転写因子hepatocyte nuclear factor (HNF)-1a, HNF-1b, HNF-4aの
遺伝子異常は若年発症型の糖尿病(MODY)を引き起こすことを我々は報告してきた。
これらの転写因子はHNFネットワークを形成し、互いに機能的に関連している。
HNF-3bも膵β細胞に発現している転写因子であり、このネットワークを形成しており、
糖尿病の候補遺伝子と考えられる。そこで、ヒトHNF-3b cDNA・遺伝子をクローニングし、
日本人糖尿病患者におけるHNF-3b遺伝子異常について検討した。
「方法」(1) ヒト肝cDNA library、ヒトgenomic libraryより、HNF-3b cDNA・遺伝子を単離した。
(2) 第1イントロンに存在していたCTTリピートを用いて、日本人糖尿病患者および
正常コントロールのタイピングを行い、association studyを行った。
(3) 各種リポーター遺伝子を作製し、膵β細胞におけるHNF-3bの標的遺伝子について検討を行った。
(4)15名のMODY, 80名の家族歴を有する2型糖尿病患者, 12名の1型糖尿病患者について、
HNF-3b遺伝子異常の有無についてPCR direct sequence法により検討した。
「結果」ヒトHNF-3bは475アミノ酸からなり、ラット・マウスと95%以上のホモロジーを有していた。
HNF-3bを強制発現させることにより、HNF-1a, HNF-4a, GLUT2, IPF-1遺伝子の発現が増強した。
CTTリピートを用いたassociation studyの結果、HNF-3bと糖尿病の間に関連は
認められなかった。シークエンスの結果、1個のミスセンス変異(A86T)、
2個のサイレント変異(A97A, G279G)を同定した。
サイレント変異の頻度は糖尿病患者と正常コントロールで差を認めなかったが、
A86T変異は正常コントロール90名には存在せず、
1名の家族歴を有する2型糖尿病患者においてのみ認められた。
「結論」2型糖尿病患者において、HNF-3bの遺伝子のミスセンス変異を同定した。
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11.日本人糖尿病患者における Pax4遺伝子異常の同定
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和歌山県立医科大学第一内科1)、大阪大学医学部第一内科2)、
琉球大学第二内科3)、和歌山県立医科大学臨床検査医学4)
島尻佳典1)、三家登喜夫4)、英 肇1)、古田浩人1)、中川貴之1)、
藤谷与士夫2)、梶本佳孝2)、高須信行3)、南條輝志男1)
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【はじめに】今回我々は、日本人糖尿病患者においてPax4遺伝子変異の有無をスクリ-ニングし、
糖尿病発症における本遺伝子変異の影響を検討した。
【対象と方法】当科外来通院中の糖尿病患者200人を対象にした。変異の検出方法としては、
PCR-SSCP法、直接シークエンス法を用いた。非糖尿病対照としては、
60歳以上で糖尿病の家族歴を有さず、耐糖能障害の既往のない者161人を対象とし、
空腹時正常血糖値、グリコヘモグロビン6%未満であることも確認した。
機能解析には、ゲルシフトアッセイ法、及びルシフェラーゼアッセイ法を用いた。
【結果】6例の糖尿病患者において、変異型ホモ接合体保有患者1例を含むミスセンス変異を同定した。
変異型ホモ接合体保有患者の臨床像は、発症前にケトーシスの既往はなく、
比較的若年発症で、発症1年前に奇形(兎唇)を伴う巨大児(5200g)の分娩歴があり、
発症時のICA抗体は陰性であるが、発症1年以内にインスリン依存状態となり、
一般の2型糖尿病とは異なる特異の臨床像を呈していた。
Family studyでは、父と母がいとこ結婚であり、妹もヘテロ接合体の変異を有していた。
75g経口糖負荷試験では、父母、妹とも、糖負荷に対する早期インスリン分泌反応が低下しており、
母は肥満を有する境界型糖尿病であり、父と妹は正常型であった。
ゲルシフトアッセイ法では、野生型Pax4は、Pax4のコンセンサス配列とされる
Rat G3 elementに強い結合能を有し、かつ、変異型Pax4は、野生型と比較して、
その結合能に減弱が認められた。ルシフェラーゼアッセイ法では、
Pax4は、Pax6のグルカゴンプロモータの転写活性能を抑制し、かつ、
変異型Pax4は、その抑制能が減弱していた。
【まとめ】Pax4に初めて変異型ホモ接合体を含むミスセンス変異を同定した。
その頻度は日本人糖尿病患者の約3%に認められた。
臨床像と機能解析より、変異型ホモ接合体患者の糖尿病発症に本遺伝子異常が関与していることが
強く示唆された。本遺伝子異常は、日本人糖尿病の主要な原因遺伝子であることは否定的であった。
しかし、妊娠、肥満、そして他の遺伝子異常を合併することにより、
催糖尿病性を来たす遺伝子異常の一つであると考えられた。
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12.膵β細胞最終分化におけるPax4/Pax6システムの意義
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大阪大学大学院病態情報内科学(第一内科)
藤谷与士夫、梶本佳孝、安田哲行、馬屋原豊、河盛段、五郎川伸一、
黒田暁生、吉田茂、山崎義光、堀正二
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Paxファミリーに属する転写因子Pax4およびPax6は、膵内分泌細胞の発生、
分化に重要な機能を有することが明らかになっている。われわれは、Pax4が転写活性化ドメインと、
転写抑制ドメインを合わせ持つユニークな構造を有すること、膵発生においては
転写抑制因子として機能すること、その機能の一部はPax6の機能を抑制することにより
発揮されることを見い出したので報告する(Fujitani et al. Mol. Cell.Biol.(1999) in press.)。
まず、PCR-based selection法により得られたPax4のコンセンサス配列は他のPaxファミリーのものと
類似するものであった。そこでPax4と同時期に発現の認められるPax6とDNA結合特異性を比較したところ、
Pax4はPax6コンセンサス配列に結合すること、加えてPax6の生理的な標的配列とされる
glucagonプロモーターのG3 element, insulinおよびsomatostatin遺伝子プロモーター上の
PISCES配列にPax4が結合することなどから両者の結合特異性は類似することが明らかとなった。
Paxの標的配列をエンハンサーとして有するレポーター遺伝子を用いて、レポーター解析を行ったところ、
ほとんどの細胞においてPax4は転写を抑制すること、
さらにPax6により誘導される転写活性化をPax4が容量依存的に抑制しうることが示された。
これと符号するように、yeast GAL4のDNA結合領域とのキメラ分子を用いたレポーター解析により、
Pax4のC末領域に転写抑制ドメインを同定した。
興味深いことに、GAL4-Pax4キメラ分子はβ細胞やα細胞株などを含む多くの細胞では
転写抑制因子として作用するが、ヒト胎児腎由来の293細胞においては転写活性化因子として作用した。
さらなる解析により、Pax4のC末領域の転写抑制ドメインのN末側に隣接してE1A応答性の
転写活性化ドメインを同定した。このことは、Pax4の活性が例えば増殖因子のシグナル等により
post-translationalな調節を受けうることを示唆するものであり興味深い。
また、Pax4のC末に同定された約70アミノ酸から構成される転写抑制ドメインは、
これをheterologousな転写活性化因子であるPDX-1の転写活性化ドメインにつなげることにより、
PDX-1の転写活性化能を完全に抑制する。
このことより、Pax4はいわゆるactive repressorとして機能し、
この転写抑制ドメインが例えばco-repressor分子等をリクルートすることにより機能する可能性が考えられた。
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13.日本人2型糖尿病患者におけるインスリン感受性 cyclic AMP 分解酵素 (PDE3B) 遺伝子
変異の検索
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千葉大学医学部第二内科1)、愛媛大学臨床検査部2)、
加曾利糖尿病センター3)
佐野りゑ1)、鈴木義史1)、橋本尚武1)、八木一夫1)、金塚東3)、
牧野英一2)、齋藤康1)
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目的:インスリンの抗脂肪分解作用に重要な役割を果たすインスリン感受性
cyclic AMP分解酵素(PDE3B)遺伝子の異常が、2型糖尿病(Type 2 DM)又は
脂肪萎縮性糖尿病(lipoatrophic diabetes mellitus, LDM)の発症に
関与しているか否かを検討する目的で、本遺伝子変異のスクリーニングを行った。
方法:Type 2 DM患者36例及びLDM患者5例を対象とし、PCR-SSCP法を用いて遺伝子異常の
スクリーニングを行い、認めた変異についてType 2 DM患者100例及び健常者群50例との間で
その頻度を比較した。PDE3B遺伝子は16個のエクソンにより構成され、
これらを増幅する20対のプライマーを合成し、32PγATPでラベルした後、PCRを行った。
増幅されたDNAをホルムアミド色素溶液で希釈した後、
非変性ポリアクリルアミドゲルで2種類の条件下
(5%グリセロール, 室温、0%グリセロール, 4℃)で泳動し、オートラジオグラフィーを行った。
結果:Type 2 DM 36例及びLDM 5例について、PDE3Bの全エクソンをスクリーニングした結果、
エクソン4のSSCPで移動度の異なるバンドがみられ、
ヌクレオチド(nt)1389 AGG → AGA (Arg463 → Arg)のサイレント変異を認めた。
nt1389のポリモルフィズムのアリル頻度は、
糖尿病群(100例)がAGG 68%, AGA 32%、コントロール群(50例)がAGG 69%, AGA 31%で、
有意差は認めなかった。
現時点でPDE3B遺伝子の糖尿病発症への関与を示唆する所見は得られていないが、
非常に稀な変異が存在する可能性は否定できない。
結論:PDE3B遺伝子異常がType 2 DM又はLDM発症へ関与している可能性は少ないと考えられた。
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14.ピオグリタゾンはKKAyマウス脂肪細胞 phosphodiesterase (PDE) 3B 遺伝子発現を増強し
インスリン抵抗性を改善する
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愛媛大学医学部臨床検査医学/糖尿病内科
大澤春彦、唐岩、大沼裕、長谷川雅昭、竹田治代、西宮達也、越智正昭、
牧野英一
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(目的)インスリンはPDE3Bを活性化する事により、細胞内cAMP濃度を低下し、
ホルモン感受性リパーゼを非活性化する。
その結果、脂肪分解が抑制され遊離脂肪酸(FFA)産生が減少する。
チアゾリジン系薬剤がインスリン抵抗性を改善する機序の一つにFFAの低下が考えられているが、
PDE3Bに対する作用は不明である。
そこで、インスリン抵抗性肥満糖尿病モデルのKKAyマウスにピオグリタゾンを投与し、
副睾丸脂肪組織におけるPDE3B 遺伝子発現への影響を検討した。
(方法)(1) 10〜12週齢のKKAyマウスにピオグリタゾン(20mg/kg)を4日間投与し、
RNase プロテクションアッセイによりPDE3B mRNAを定量した。
(2)ウエスタンブロットによりPDE3B蛋白量を測定した。
(3)脂肪細胞を作製し、河野らの方法によりインスリン刺激前後のPDE活性を測定した。
(成績)(1) KKAyマウスのPDE3B mRNAは、C57BLコントロールマウスの48%と低値を示した(n=8)。
ピオグリタゾン投与群KKAyマウスのPDE3B mRNAは、非投与群に比し1.8 倍と上昇した(n=8)。
(2)KKAyマウスのPDE3B蛋白量は、C57BLマウスの43%と低値を示した(n=6)。
ピオグリタゾン投与群KKAyマウスでは、非投与群の1.8 倍と上昇した(n=4)。
(3)KKAyマウスの脂肪細胞におけるPDE基礎活性及びインスリン刺激によるPDE活性は
C57BLマウスに比し、それぞれ50%、36%と低値を示した(n=6)。
ピオグリタゾン投与群のKKAyマウスでは、非投与群に比しインスリン刺激前は1.6 倍、
刺激後は2 倍と上昇した(n=6)。
また、ピオグリタゾン投与により、血糖、血中インスリン、血中FFAはいずれも低下した。
(結論)ピオグリピタゾンはKKAyマウス脂肪細胞のPDE3B遺伝子の発現を増強することにより、
血中FFAを低下させ、インスリン抵抗性を改善する可能性が示唆された。
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15.ウエルナー症候群遺伝子(WRN)変異と糖尿病の関連性についての検討
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東北大学医学部第三内科1)、仙台厚生病院2)
平井完史1)、鈴木進1)、桧尾好徳1)、千葉雅樹1)、鈴木千登世1)、黒川修行1)、
赤井裕輝2)、豊田隆謙1)
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【目的】ウェルナー症候群は早期老化症候群の代表的疾患であり,老化,成人病の
モデル疾患として注目されている.1992年その原因遺伝子が第8染色体短腕の
RecQ型DNAヘリカーゼ(WRN 遺伝子)であることが判明した.
WRN遺伝子1367番アミノ酸Cys/Arg多型が心筋梗塞と関連し,
1367Argが心筋梗塞に対して防御的に関与していることが報告され,
本多型と加齢に伴う疾患との関連が注目されている.
そこで,我々はWRN1367Cys/Arg多型と日本人2型糖尿病の関連について検討した.
【対象と方法】一般2型糖尿病者(DM)253名(男/女 123/131),
対糖能正常者(NGT)238名(男/女 143/95)を対象として,WRN1367番アミノ酸Cys/Arg 多型の
頻度を検討した.対象者を60歳未満の壮年者とそれ以上の高齢者で分けて検討した.
さらに,DM群内で発見時45 歳未満の比較的早期発症者とそれ以降の高齢発症者に
分けての検討を行った.多型の識別はアレル特異的なTaqManプローブを用い
PRISM7700によるPCR法にて行った.
【結果と考案】全年齢を含めた解析では,DMでNGTに比して1367Cys/Cysが高頻度でCys/Argが
低頻度の傾向が認められた.Arg/Argは両群とも認めなかった.
60歳未満の者を対象にした解析では,DM群においてNGT群に比して有意にCys/Argが
低頻度であった(DMで6.4%,NGTで15.2%)であった(p<0.05).
また,DM群における発見時年齢による分類では,45 歳未満の比較的早期に発症した群で
それ以上の高齢発症の群に比してCys/Argが有意に低頻度であった(5% vs 13.1%, p<0.05).
今回の検討で糖尿病者において耐糖能正常者に比して1367Arg が低頻度であることが明らかになった.
また,糖尿病者を対象とした解析では,1367Argが比較的早期に発症した群において
高齢発症の群に比して低頻度であることが明らかとなった.
以上より1367Argアレルが日本人2型糖尿病の発症に防御的に関与している可能性が示唆された.
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16.Differential display 法(DD法)を用いたインスリン抵抗性関連遺伝子の解析
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東京女子医科大学糖尿病センター1)、米国国立衛生研究所2)
菅野宙子1)、木戸良明1)、Accili,Domenico2)、岩本安彦1)
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インスリン抵抗性は2型糖尿病の病因に強く関与すると考えられているが、
遺伝因子と環境因子の影響もあり、病態の解明には至っていない。
我々は以前、変異インスリン受容体遺伝子をヘテロに持つマウス(IR+/-M)を作製したが、
このIR+/-Mは同じ遺伝背景を持つにもかかわらず10%のみが糖尿病を発症する。
このことからインスリン受容体の変異とともに糖尿病発症に寄与する他の遺伝子の存在が想定された。
今回、我々はdifferential display法(DD法)を用いてこのIR+/-Mの解析を行い、
インスリン抵抗性関連遺伝子の同定を試みた。
まずIR+/-Mを血漿インスリン正常群(非糖尿病)と高インスリン群(糖尿病)に分別し、
骨格筋からRNAを抽出した。任意配列のプライマーによるPCRで複数のcDNAを同時に増幅し、
ゲル電気泳動で展開後、得られたフィンガープリントを両群間で比較し、
22の興味ある挙動のバンドを選別しクローン化した。うち14種はインスリン正常群で、
残る8種は高インスリン群で発現が増加していた。
塩基配列決定法による分析の結果、現在までに9種の未知の遺伝子、
4種の反復配列遺伝子および5種の既知の遺伝子を同定した。
既知遺伝子のうち骨格筋の構成蛋白であるnebulin、titinは高インスリン群において
発現の増加が認められたが、calmodulin、calmodulin-dependent protein kinase II(Camk-2)、
tissue inhibitor of metalloproteinase-3(TIMP-3)は高インスリン群で発現が減少していた。
現在ノーザンブロッティング等により発現パターンを確認中であるが、
DD法がインスリン抵抗性および糖尿病の素因となる遺伝子を解明する上で
有用なアプローチとなる可能性が示唆された。
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17.運動による糖代謝活性化の分子機構
〜シグナル伝達分子としての5'AMPキナーゼの可能性
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京都大学大学院臨床病態医科学講座1)、
ハーバード大学医学部・ジョスリン糖尿病センター2)
林 達也1)、中野雅子1)、米光新1)、枡田出1)、益崎裕章1)、小川佳宏1)、
細田公則1)、井上元1)、吉政康直1)、中尾一和1)
Laurie J. Goodyear2)
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[目的]5'AMP-activated protein kinase (AMPK)は、
運動によるATP消費に伴う骨格筋エネルギー状態低下([AMP]上昇・[AMP]/[ATP]上昇)に
反応して活性化される。
我々はAMPKが運動の糖代謝改善効果の発現に関与する可能性を検討した。
[成績](1)インスリン非依存性糖輸送促進:ラット単離骨格筋をAMPK活性増強剤AICARを含んだ
緩衝液中でインキュベートすると糖輸送活性が顕著に亢進した。
AICARによって亢進した糖輸送活性はインスリンによる糖輸送活性と相加効果を
呈するとともにwortmanninでは抑制されず、運動によるインスリン非依存性糖輸送と
同様の性質を示した。正常マウス(C57/B6)と糖尿病モデルマウス(C57/B6-STZ、KKAy)に
AICAR(250mg/Kg)を腹腔投与すると4〜6時間にわたり前値の30〜50%まで血糖値が低下した。
骨格筋には2種類の活性サブユニット(α1・α2)が存在するが、
トレッドミル運動を行ったラット骨格筋ではα2活性のみが亢進し糖輸送活性と相関した。
ラット単離骨格筋の電気刺激による収縮実験においてもα2活性と糖輸送活性が顕著に相関した。
ヒト外側広筋の生検サンプルでは70%VO2maxの自転車運動によって運動開始20分までに
α2活性が亢進し、60分間の運動中持続した。
(2)骨格筋GLUT4の増加:正常マウス・糖尿病モデルマウスに5〜7日間AICARを
腹腔内に反復投与したところ、骨格筋GLUT4蛋白量が2〜4倍に増加した。
GLUT1蛋白量には変化を認めなかった。
[結論]AMPKは運動によるインスリン非依存性糖輸送促進や骨格筋GLUT4発現増加に
関与するシグナル伝達分子である可能性が示唆された。
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18.インスリン、ブラジキニンシグナル再構築32Dー細胞を用いたブラジキニンのインスリン
シグナル early step への影響解析
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熊本大学医学部代謝内科
本島寛之、荒木栄一、西山敏彦、田口哲也、金子健吾、平島義彰、吉里和晃、
白神敦久、堺弘治、河島淳司、城谷哲也、岸川秀樹、七里元亮
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【目的】これまでにin vivoでブラジキニン(BK)注入によりインスリン感受性が増強されること、
単離イヌ脂肪細胞および骨格筋にてブラジキニンがインスリン作用を
増強することを報告してきた。
今回、内因性ブラジキニンレセプター(BKR)およびIRS-1を欠く32D細胞にBKR、
インスリンレセプター(IR)およびIRS-1cDNAを導入し、
インスリン(Ins)作用へのBKの影響を検討、その作用機序を明らかにせんとした。
【方法】(1)32D細胞にBKR cDNAを導入、stable clone(32D-BKR細胞)を確立した。
(2)32D-BKR細胞にIR,IRS-1 cDNAを単独または重複して導入し、
IRのみ、IRS-1のみを発現する32D-BKR/IR細胞、32D-BKR/IRS1細胞、
両方を発現する32D-BKR/IR/IRS1細胞を確立した。
各細胞をBKおよびInsにて刺激後、
(3)IR、IRS-1のチロシンリン酸化、
(4)IRS-1とPI-3キナーゼとの結合とその活性、
(5)細胞膜および細胞質分画におけるIRの脱リン酸化能を検討した。
【結果】(1)BKはInsによるIR、IRS-1のチロシンリン酸化を増強した。
(2)BKはInsによるIRS-1とPI-3キナーゼとの結合およびその活性化を増強した。
(3)(1)(2)の作用はIRまたはBKRを発現していない細胞では認められなかった。
(4)BKのIns作用増強はHoe140(BKR拮抗剤)により抑制された。
(5)BK刺激は細胞膜分画のIR脱リン酸化能を抑制した。
【結論】(1)Ins、BKシグナルを再構築した細胞において、BKがIRチロシンキナーゼを
増強することにより以降のシグナルを増強することが確かめられた。
(2)その機序の1つは細胞膜分画に存在するチロシンフォスファターゼの
活性抑制によるものであることを示し得た。
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19.免疫抑制剤ラパマイシン標的蛋白であるmTORのカルボキシル末端の機能解析
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神戸大学バイオシグナル研究センター
原 賢太、高橋徹也、井上仁美、徳永千春、米澤一仁
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<目的>PI-kinase-related kinase (PIK-RK)ファミリーの1つであるmTORは、
mRNAの翻訳にかかわるエフェクター分子:p70S6キナーゼ(p70)と
eIF-4E結合蛋白(4EBP)の上流シグナル分子として、
これらの分子のリン酸化/活性化を調節しており、
インスリンによるp70 と4EBPのリン酸化/活性化に必須のシグナル伝達分子である。
mTOR の活性調節経路として、細胞環境中のアミノ酸バランスが重要である一方、
PKBを介した活性化経路が報告されているが、mTOR の詳細な活性調節機構は不明である。
今回我々は、mTOR上のPKBによるリン酸化候補部位Ser2448及びPIK-RKファミリーにおいてのみ
非常に相同性の高いC末端領域に着目し、これらの領域のmTOR機能発現における 役割を検討した。
<方法>ラパマイシン抵抗性mutant mTOR(ST-mTOR)をもとに、種々の欠失変異やアミノ酸置換を導入し、
1)in vitroにおけるmTORの自己リン酸化活性及びp70と4EBPに対するリン酸化活性、
2)in vivo において、ラパマイシンによるp70のkinase活性阻害に対する
mutant mTORによる rescue効果、を検討した。
<結果>1)C末端アミノ酸を順に56、32、15、3アミノ酸欠失させると、いずれのmutantにおいても、
in vitro における自己リン酸化活性やp70及び4EBPに対するリン酸化酵素活性が消失していた。
2)PIK-RKファミリーにおいてのみよく保存されているLeu2538やTrp2545をPheなどに
置換したmutantでも同様に、リン酸化活性が消失していた。
3)mTORのC末端32アミノ酸を、相同性の高いATMのC末端32アミノ酸と置換したmutantでも、
mTORのリン酸化活性は消失していた。
4)酵素活性の消失したいずれのmutantにおいても、ラパマイシンによるp70の抑制に対して、
in vivo におけるmTORのrescue効果は消失していた。
5)PKBリン酸化候補部位Ser2448をAlaに置換しても、mTORの in vitro及び
in vivo における活性発現は保たれていた。
<結論>PIK-RKファミリー において高い相同性を示すmTORのC末端領域は、
in vitroとin vivoの両方において、mTORの機能発現に必須の領域である。
一方、Ser2448はmTOR機能に必須のアミノ酸ではない。
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20.インスリンの代謝作用発現におけるSHIP2の役割
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富山医科薬科大学第一内科
和田努、笹岡利安、石原元、堀宏之、石木学、春田哲郎、小林 正
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[目的]SH2-Containing Inositol 5-Phosphatase(SHIP)は血球系の細胞において主に発現し、
内在する5'-フォスファターゼ活性により、増殖・分化のシグナルを負に調節する。
我々はそのHomologueとして骨格筋細胞を中心にインスリンの標的細胞で発現する
SHIP2をクローニングし、インスリンの増殖作用を負に調節することを報告してきた。
今回、脂肪細胞での インスリン代謝作用発現におけるSHIP2の役割を検討した。
[方法・成績]SHIP2の5'-フォスファターゼ活性を欠いたΔIP-SHIP2を作成し、
野生型とともにアデノウイルスベクターに組み込みウィルスを作成した。
これらを3T3L1脂肪細胞に感染させる事により各SHIP2を一過性に過剰発現し、
以下の検討を行った。
SHIP2の過剰発現はPI3 Kinaseに至る早期インスリンシグナルには影響を与えなかった。
一方、PI3 Kinase代謝産物がAkt活性化に重要であり、野生型SHIP2過剰発現による
PI3,4,5-P3の代謝によりAkt活性は抑制され、ΔIP-SHIP2発現により上昇を認めた。
Akt活性の変化に一致して、GSK3βの燐酸化、グリコーゲン合成酵素の活性も
野生型SHIP2過剰発現により抑制され、逆に、ΔIP-SHIP2発現により亢進を認めた。
その結果、インスリンによるグリコーゲン合成は、野生型SHIP2過剰発現により抑制され、
ΔIP-SHIP2発現により亢進を認めた。
さらに、インスリンによる糖取り込みも野生型SHIP2過剰発現により抑制され、
ΔIP-SHIP2発現により亢進を認めた。
[結論]3T3L1 脂肪細胞において、 SHIP2は内在する 5'-フォスファターゼ 活性により
PI3 Kinase 代謝産物であるPI3,4,5-P3を代謝する事により、
インスリンによる糖の取り込みとグリコーゲン合成に至るシグナル伝達を
抑制的に制御していることが考えられた。
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21.GLUT4の細胞表面への移動に対するp110のPI 3-、PI 4-両キナーゼ活性の役割
インスリン作用におけるD−3位およびD−4位リン酸化ホスホイノシチドの役割
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東京大学糖尿病、代謝内科
浅野知一郎、船木真理、片桐秀樹、犬飼浩一、小野啓、大西由希子、菊池方利、
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【目的】p85/p110 タイプPI-キナーゼは細胞内でPI 3-、PI 4-両キナーゼ活性を発揮する。
そこで産生された各ホスホイノシチドのインスリン作用への関与について検討した。
【方法】p110の脂質キナーゼドメインをhVPS34、p170、PI4Kの脂質キナーゼドメインに
組み換えたキメラp110(p110-hVPS、p110-p170、p110-PI4K)を作成し、
アデノウィルスを用いて3T3-L1脂肪細胞に過剰発現させた。
【結果】インスリン刺激あるいは野生型p110発現によってPI-3-P、PI-3,4-P2、PI-4-P、PI-4,5-P2
およびPI-3,4,5-P3が増加した。
一方、p110-hVPS、p110-p170またはp110-PI4Kの発現によっては、
PI-3-P、PI-3-PおよびPI-3,4-P2、またはPI-4-PおよびPI-4,5-P2がそれぞれ増加した。
すなわち、キメラp110によって、特定のホスホイノシチドのみを増加させる系が樹立された。
野生型p110あるいはp110-p170を過剰発現した場合のみ細胞膜ラッフルが見られ、
PI-3,4-P2の作用と考えられた。
野生型p110あるいはp110-PI4Kを過剰発現した場合のみ、
細胞質に太いアクチンバンドルが出現すると共に、
細胞膜にGLUT4が移動することがウェスタンブロット法によって確認された。
野生型p110あるいはp110-PI4Kの作用は抗PI-4,5-P2抗体の微量注入により阻害され、
PI-4,5-P2によって伝達されていると推察された。
興味深いことに、p110-PI4K発現ではGLUT4は細胞外には露出せず、
p110-PI4Kとp110-p170を同時に過剰発現させて初めて糖取り込みが増加した。
したがってPI-4,5-P2のシグナルは、GLUT4の細胞膜上への移動を、
そしてPI-3,4-P2は細胞膜へのfusionに関与することが示された。
【結論】PI-3,4-P2によって細胞膜ラッフルが、PI-4,5-P2によって細胞質内アクチンバンドルが惹起される。
GLUT4は、細胞膜への移動はPI-4,5-P2によって、細胞膜へのfusionにはPI-3,4-P2に
よって導かれていることが示された。
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22.インスリンシグナル伝達におけるPTEN/MMAC1の抑制的役割
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国立中津病院1)、カリフォルニア大学サンディエゴ校2)、
九州大学大学院医学研究科病態制御内科3)
中島直樹1)2)、Jerrold M、Olefsky2)、梅田文夫3)、名和田新3)
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インスリン刺激によるGLUT4のトランスロケーションにはPI3-kinaseが主要な役割を演じている。
しかし、PI3-kinaseの産物であるPI(3,4,5)P3の代謝経路については明らかでない。
最近、腫瘍抑制遺伝子産物であるPTEN/MMAC1(以下PTEN)が、PI(3,4,5)P3のD3位に対する
phosphataseとして働くことが報告された。
我々は、PTENのインスリンシグナル伝達における役割を3T3L1脂肪細胞を用いて検討した。
野生型PTENをコードするPTENアデノウイルスを3T3L1脂肪細胞に感染させたところ、
ウイルス濃度依存性に内因性PTENの30倍以上(60 m.o.i.)に過剰発現した。
コントロールウイルス感染細胞を対照としたWestern blot法による解析では、
インスリン刺激によるインスリン受容体やIRS-1のチロシンリン酸化、MAP kinaseのリン酸化、
およびPI3-kinaseの活性化はPTENの過剰発現で影響を受けなかった。
一方、PI3-kinaseの下流に位置するAktおよびp70 S6 kinaseのリン酸化は
PTENの過剰発現で部分的に抑制された。
また、PTENの過剰発現によって、インスリン刺激による糖取り込み、GLUT4トランスロケーション、
membrane ruffling形成およびグリコーゲン合成が38-53%抑制された。
これらより、PTENの過剰発現はPI3-kinaseの下流でインスリンシグナル伝達を抑制することが示唆された。
次に、内因性PTENを阻害する目的で、抗PTEN抗体を3T3L1脂肪細胞にマイクロインジェクションして
GLUT4のトランスロケーションを測定した。
インスリン非刺激で、抗PTEN抗体のマイクロインジェクションはインスリン刺激した
対照細胞(IgGをマイクロインジェクション)の45%までGLUT4をトランスロケートした。
インスリン刺激でも抗PTEN抗体のマイクロインジェクションは、
相加的にGLUT4のトランスロケーションを増加させた。
このことから、3T3L1脂肪細胞ではGLUT4のロケーションは、PTENとPI3-kinaseの活性のバランスによって
調節されていることが示唆された。Western blot法でPTENのマウスの組織発現を検討したところ、
脳に最も強く発現し、次に肝、腎、脂肪組織、脾臓に多く発現、骨格筋、心筋、膵臓の発現は少なかった。
以上より、インスリンの標的臓器であり、かつPTENが比較的強く発現している肝臓、脂肪組織での
インスリンシグナル伝達におけるPTENの負の役割が推定された。
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23.インスリンによるAkt活性化におけるPKCεの関与
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神戸大学医学部第二内科
松本道宏、小川渉、北村忠弘、小谷光、日野泰久、春日雅人
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【目的】Aktはインスリンにより活性化されるセリン・スレオニンキナーゼであり、
グリコーゲン合成や脂肪分解抑制などのインスリン作用に関与する。
Aktの活性化には、PI3-キナーゼ(PI3-K)を介した細胞膜への移動とPDK1によるリン酸化が
必要と考えられているが、その機構は十分には明らかではない。
一方、PKCεはPI3-Kのエフェクターと考えられる分子であるが、
そのインスリン作用における機能は不明である。
本研究ではPKCεの変異体を用いてインスリン依存性のAkt活性化におけるPKCεの関与を検討した。
【方法】キナーゼ欠損型変異PKCε、PKCα、PKCλ(εKD、αKD、λKD)、野生型PKCε(εWT)、
恒常的活性化型 PI3-K(myr-p110)およびPDK1をコードするアデノウイルスベクターを用いて
各変異体をL6筋肉細胞に発現させ、インスリン処理後のAkt活性及び
抗リン酸化Akt抗体を用いたイムノブロット法によるAktのリン酸化を検討した。
【結果】εKDの発現によりインスリンによるAktの活性化およびリン酸化は抑制されたが、
εWTやαKD、λKDの発現はAktの活性化を抑制しなかった。
εKDの発現にてもインスリンによるPI3-K、MAPキナーゼ活性化は影響を受けず、
εKDのシグナル遮断作用はAktに特異的と考えられた。
myr-p110の発現によりインスリン非存在下にもAktの活性化を認めたが、
εKDはmyr-p110依存性のAktの活性化も抑制した。
PDK1の発現によりインスリン非存在下にAktの活性化を認めたが、
εKDはPDK1依存性のAkt活性化も抑制した。
【結論】インスリンによるAktの活性化においてPKCεは、PDK1とAktの相互作用に
関与している可能性が示唆された。
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24.Dehydroepiandrosterone (DHEA) とDexamethasone (Dex) によるinsulin 作用と
Protein kinase C (PKC) に対する影響の比較
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長浜赤十字病院1)、岐阜大学総合診療部2)、岐阜大学第三内科3)
梶田和男1)、石塚達夫2)、三浦淳3)、石澤正剛3)、木村美香3)、安田圭吾3)
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我々は、Dexによる1時間の前処置で、insulinによる糖取り込みが抑制され、
この効果は、conventional PKC (cPKC)阻害薬Go6976によって解除される事から、
Dexによるinsulinへの急性効果はcPKCを介したものである可能性を報告した。
またDexはconventionalおよびatypical PKC(aPKC)に特異的に結合し、
これらを活性化する事を、今年日本糖尿病学会で報告した。
一方、DHEAもPKCを活性化するが、これは単独で糖取り込みを惹起し、insulin作用を増強した。
今回我々は両steroid hormoneのcPKC, aPKCに対する影響の差につき検討した。
(結果)Dex、DHEA共in vitroで同程度にPKCbを活性化し、PKCzはDHEAにより、より強く活性化された。
脂肪細胞をDexa、DHEAで刺激した時、細胞内のPKCzはDHEAでより強く活性化された。
Dexa、DHEAはin vivoでPI3-kinaseを各150%、200%活性化した。
これはcPKCによる作用と考えられたが、DHEAにより強くPI3-kinaseが活性化された理由として、
DHEAにより、細胞内でdiacylglycerolが産生された事が原因と考えられた。
Dexa、DHEAによって細胞内PKCzが活性化される機序として、
各ホルモンによる直接の活性化と、PI3-kinaseを介した経路が考えられた。
(結論)DHEAはDexより、より強くPKCzを活性化する事によりinsulin様作用を表すものと考えられた。
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25.脂肪細胞分化過程におけるGLUT4トランスロケーション機構の成立
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京都大学医学部 臨床病態医科学・第二内科
山本祐二、井上元、黄真、庄司雅子、則貞伸嘉、細田公則、吉政康直、中尾一和
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【背景】3T3-L1細胞(L1)は、isobutyl-methylxanthine(IB)、dexamethasone(DX)、
insulinの三種(F)のinducerにより脂肪細胞へと分化誘導できる。
IBおよびDX単独ではそれぞれC/EBPβおよびC/EBPδを一過性に誘導するが、
その後C/EBPαやPPARγの発現は認められず脂肪細胞へと分化しない。
IB+DXの組み合わせでは、C/EBPβおよびC/EBPδの発現が誘導され、
さらに第五日目にはC/EBPαおよびPPARγの発現が認められるが脂肪蓄積はほとんど認められない。
また脂肪細胞分化の過程でインスリン感受性糖輸送単体GLUT4が発現するが、
GLUT4は発現と同時に細胞内にプールされ、インスリンに反応して細胞表面に
トランスロケーションする。
そのため、このトランスロケーション機構が分化過程のどの時期に成立するのかは不明である。
【目的】L1にmyc-tagged GLUT4(mG4)をstableに発現させたcell line(LmG)を用い、
脂肪細胞への分化過程におけるインスリン反応性を検討した。
また、インスリン反応性がどのinducerによるかも検討し、
更にL1と同系でclonal expansionの過程までたどるが脂肪蓄積が認められない3T3-C2細胞(C2)、
脂肪細胞分化の認められない線維芽細胞NIH-3T3(NIH)にもmG4を発現させ(CmG、NmG)比較検討した。
【方法】1)糖輸送活性は2-deoxy-D-glucose取り込みを測定した。
2)GLUT4およびmG4の細胞内局在のインスリンによる変化を細胞膜分画法を用いて
細胞膜分画(PM)および細胞内膜分画(IM)に分けて検討した。
3)GLUT4およびmG4のインスリンによるトランスロケーションを抗myc抗体を用いて
細胞表面で検出(surface detection assay;SDA)した。
【結果】1)糖輸送活性でみたインスリン反応性は、NIH、NmGでは全期間を通じて観察されなかったが、
L1、LmG、C2、CmGにおいては細胞がconfluenceに達するとインスリン反応性が生じた。
さらに生じたインスリン反応性はIB+DXの組み合わせで誘導後第二日目に増強された。
I B+DXで増強されたインスリン反応性は、その後分化誘導第八日目CmGでは消失していたが、
LmGでは維持されていた。
2)膜分画法で検討したmG4の細胞内局在は、NmGにおいては約40%がPMに局在し
インスリン反応性は生じなかった(PM局在;40%、インスリン反応性;(-))。
confluence前、後のmG4のPM局在とインスリン反応性は、
LmGにおいて前70%(-)、後17%(+)、CmGにおいて前40%(-)、後40%(+ -)であった。
分化誘導第二日目には、LmGにおいてFで40%(++)、IB+DXで10%(+++)、
CmGにおいてFで20%(++)、IB+DXで20%(++)であった。
LmGにおける第八日目のインスリン反応性は、Fで(++)、IB+DXで(+++)、
CmGのそれは、Fで(+ -)、IB+DXで(+ -)であった。
3)SDAによる検討では、LmGにおいて分化誘導第二日目のインスリン反応性は、
IB+DXが約4倍と最も良かった。CmGでは、第二日目においてNで1.3倍、IB+DXで1.6倍、
Fで1.8倍であったが、第八日目はN、IB+DX、Fすべて1.4倍でインスリン反応性に
差は認められなかった。第二日目のNmGではN、IB+DX、Fすべて1.0倍で
インスリン反応性は認められなかった。
【考察】LmGにおいてmG4はまず細胞がconfluenceになった後に細胞内に局在しプールを形成し
インスリン反応性が生じる。IB+DXによる誘導がインスリン反応性を増強し、
第八日目もインスリン反応性は保たれていた。CmGにおいてはconfluenceでは
mG4の局在に変化はなくインスリン反応性もほとんどないが、分化誘導刺激後、
FおよびIB+DXでも同様にmG4は細胞内へ局在しインスリン反応性を生じる。
しかし、第八日目にはインスリン反応性は消失していた。
NmGにおいては一貫してmG4の細胞内局在に変化なく、インスリン反応性も生じなかった。
以上の結果より、3T3-L1の脂肪細胞分化過程には脂肪蓄積能とは独立して、
脂肪細胞分化過程の早期にインスリン反応性を獲得し、
さらにその反応性を維持する機序が存在すると考えられる。
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26.脂肪細胞分化に伴うGLUT4発現におけるC/EBP−β、−δの役割
−C/EBP−β、−δ欠損マウス由来線維芽細胞を用いた解析
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大阪大学大学院内科系分子病態内科学(第三内科)
山本浩靖、紅林昌吾、弘世貴久、住谷哲、幸原晴彦、笠山宗正
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【目的】脂肪細胞分化には転写因子C/EBP-alpha、-beta、-deltaと核内受容体PPARgammaが
重要な役割を担っていることが明らかにされている。
脂肪細胞分化に伴いGLUT4の発現上昇が認められることから、
脂肪細胞におけるGLUT4発現にはこれらC/EBPファミリーとPPARgammaが
関与していることが示唆されるものの、その詳細は不明である。
C/EBPファミリーとPPARgammaの発現には相互作用が認められるため、
脂肪細胞の分化に伴う種々の遺伝子発現におけるこれら因子の関与を明らかにすることは困難であった。
今回、脂肪細胞のGLUT4発現におけるC/EBP-b、-dの関与を明らかにする目的で、
C/EBP-beta、-delta欠損マウス由来線維芽細胞(MEF)にPPARgamma2を強制発現させた
脂肪細胞分化モデルを用いた解析を行った。
【方法】野生型マウス由来MEF(WT-MEF)およびC/EBP-beta、-delta欠損マウス由来MEF(KO-MEF)を
胎生14.5日齢マウスより分離樹立した。
細胞がconfluentになった2日後にPPARgamma2発現アデノウイルスを感染させ、
その後10 microM troglitazoneで刺激を開始した。GLUT4、aP2、LPL、C/EBP-alpha の
mRNA発現はNorthern blot法にて解析した。
【結果】PPARgamma 2強制発現およびtroglitazone刺激により、
WT-MEFおよびKO-MEFのいずれも成熟脂肪細胞の形態を呈しその分化は同程度であった。
Troglitazone刺激8日目のGLUT4 mRNAの発現量は、KO-MEFでWT-MEFの約50%に低下していた。
一方、aP2 mRNA量は両者で差異を認めなかったが、KO-MEFでのLPL、
C/EBP-alpha mRNA量はWT-MEFに比べて低値であった。
【結論】PPARg2強制発現による脂肪細胞分化モデルにおいて、GLUT4の十分な発現には
C/EBP-beta、-deltaが必要である。
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27.PPARγ情報伝達経路遮断による抗肥満、インスリン抵抗性改善作用
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東京大学医学部糖尿病代謝内科1)、朝日生命糖尿病研究所2)、東京大学薬学部薬化学3)
山内敏正1)、三木啓司1)、脇裕典1)、戸辺一之1)、門脇孝1)、木村哲1)、
赤沼安夫2)、影近弘之3)、首藤紘一3)
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【目的】PPARgamma/RXRはヘテロダイマーを形成して機能する核内受容体転写因子であり,
それらの強力なアゴニストは脂肪細胞分化を介してインスリン抵抗性を改善すると考えられている。
一方我々はPPARgammaヘテロ欠損マウスの解析により,
PPARgammaが高脂肪食下で脂肪細胞肥大による肥満を介してインスリン抵抗性を惹起する役割をも
有していることを報告した(Mol. Cell, 4, 597-609, 1999)。
PPARgamma/RXR情報伝達経路の遮断が新規抗糖尿病薬,抗肥満薬のターゲットとなり得るかどうか,
RXRアンタゴニストを用いて検討した。
【方法,結果】RXRアンタゴニストはin vitroにおいてPPARgamma応答配列を介した転写を抑制し,
脂肪細胞における中性脂肪の蓄積を抑制した。このRXRアンタゴニストを,過食による肥満,
インスリン抵抗性のモデルであるKKAyマウスにin vivoで高脂肪食下に投与した群では,
高脂肪食のみのコントロール群と比較して,体重,白色脂肪組織重量,糖負荷試験における
インスリン値が有意に低値を示し,随時,及びインスリン負荷試験時の血糖値が低い傾向にあった。
【総括】高脂肪食下においてPPARgamma/RXR情報伝達経路を遮断することが抗肥満,抗インスリン抵抗性に働き,
糖代謝改善の新しい薬物療法のターゲットとなり得る可能性が示唆された。
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