手足の麻痺について

 
  麻痺とは文字通り力が入らなくなる事です。 障害部位で分けると以下のものが考えられます。

1.骨格筋自体の病気
  
  多発性筋炎(骨格筋の炎症)、進行性筋ジストロフィ−症(遺伝による筋肉の変性)等、筋肉自体の病変で力がはいらなくなります。

2.神経筋接合部の病気
  
  力を出すには、脳から出た命令が、最終的に脊髄を経て末梢神経(運動枝)を通り、骨格筋に伝えられなければいけません。 神経筋接合部はこの末梢神経の終末部と骨格筋の間の極わずかの間隙の部分を意味します。 神経終末から神経伝達物質(アセチルコリン)が放出され骨格筋の受容体(アセチルコリンが取り込まれる特殊な場所)に届くと筋肉に収縮が起こり力が出ることになります。この接合部の異常で脱力の生じる病気として、重症筋無力症(アセチルコリン受容体の障害)・ランバ−ト.イ−トン症候群又は筋無力症症候群(神経終末よりアセチルコリン放出の障害)等があります。 重症筋無力症は疲労により症状が悪化し休息で改善(起床時は状態がよく、夕方に悪化:日内変動)する臨床的特徴があり、ランバ−ト.イ−トン症候群は悪性腫瘍特に肺癌に合併して生じる病気です。

3.末梢神経の病気
  
  末梢神経の内、骨格筋に命令を伝えるのは運動神経です。 この運動神経に障害が生じると筋肉に力が入らなくなります。 原因は多発性神経炎、外傷、圧迫、遺伝性変性、中毒などいろいろです。 この場合は筋肉に神経原性筋委縮(運動神経が切れて筋肉が痩せる)が生じます。 筋肉自体の病気で筋肉が委縮(筋原性筋委縮)しているのか、神経原性筋委縮かの鑑別は臨床上重要で、筋電図、神経伝導検査、血液検査(クレアチンキナ−ゼ酵素の測定)などが必要です。

4.脊髄の病気
   
  大脳からの命令は脊髄を経由して末梢神経に伝えられます。 脊髄に生じる様々の障害(炎症・腫瘍・出血・梗塞・外傷・変性疾患・椎間板ヘルニアによる圧迫等々)で手足にいく神経が障害され麻痺(多くは感覚障害も伴っている)が生じます。 その障害部位、病気の種類によりその麻痺の生じる早さ、部位、程度(臨床像)は様々です。

5.脳の病気
   
  力を出すには最初に大脳皮質(前頭葉にある運動野)からの命令が必要です。 脳梗塞、脳出血、脳炎、脳腫瘍や外傷などで、大脳の運動神経が関与する経路に障害が生じると、通常その反対側の半身麻痺が生じます。 ただ大脳は部位によりいろいろ機能が分化していますので、大きな腫瘍や脳梗塞でも麻痺が生じ無い事もあります。

6.心身症
  
  以上の1)から5)の神経系に異常が無くても麻痺が生じる事はありえます。 心理的なストレス、ショック等が引き金となり、本人の意識下のレベル(わざとでなく無意識に)で力を出せない状態(ヒステリ−)です。 この場合は心理療法など精神科専門医の治療(精神療法)が必要です。


 
  麻痺の起こる原因として、神経系の障害部位別のレベルを上げてみました。 力が入りにくい場合、神経系のどの部位にどのような病態(炎症・腫瘍・変性・外傷等々)が生じているかの早期の的確な診断は、治療上、また予後の見通しにも重要です。 これらの診断には神経内科専門医の診察が必要です。