最近、忘れっぽくなったといって、外来に来られるひとの大多数は認知症を心配されている様です。
物忘れは年をとればある程度までは生理的老化と考えて良いと思います。 ただ限度の基準を何処に置くかが問題となります。 神経内科の外来では認知症かどうかの判定に長谷川式簡易認知症スケ−ルがしばしば使用されます。
又、MRIを使用し記憶に重要な脳の領域である海馬傍回の萎縮を診る検査(VSRAD)等でアルツハイマー型認知症で低下しやすい脳の領域を判定する検査などを、外来にて予約可能です。
実施日 年 月 日 患者名
1 | お歳はいくつですか?く2年までの誤差は正解) | 0 1 |
2 | 今日は何年の何月何日ですか? 何曜日ですか?(年,月,日, 曜日が正解でそれぞれ1点ずつ) | 0 1 0 1 0 1 0 1 |
3 | 私たちが今いるところはどこですか?(自発的にでれば2点, 5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?のなかから正しい選択をすれは1点) | 0 1 2 |
4 | これから言う3つの言葉を言ってみてください.あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください.(以下の系列のいずれか1つで,採用した系列に○印をつけておく) 1:a)桜 b)猫 c)電車 2:a)梅 b)犬 c)自動車 |
0 1 0 1 0 1 |
5 | 100から7を順番に引いてください。(100−7は?(93),それからまた7を引くと?(86)と質問する。最初の答が不正解の場合,打ち切る) | 0 1 0 1 |
6 | 私がこれから言う数字を逆から言ってください.(6−8−2, 3−5−2−9を逆に言ってもらう.3桁逆唱に失敗したら打ち切る) | 0 1 0 1 |
7 | 先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください.(自発的に回答があれば各2点,もし回答がない場合以下のヒントを与え正解であれば1点) a)植物 b)動物 c)乗り物 | a:1 2 b:1 2 c:1 2 |
8 | これから5つの品物を見せます。それを隠しますのでなにがあったか言ってください.(時計.鍵.タバコ.ペン.硬貨など必ず相互に無関係なもの) | 0 1 2 3 4 5 |
9 | 知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。(答えた野菜の名前を右欄に記入する。途中で詰まり、約10秒間待っても答えない場合にはそこで打ち切る) 0〜5=0点,6=2点,7=2点, 8=3点, 9=4点, 10=5点 | 0 1 2 3 4 5 |
満点:30点
カットオフポイント:20/21(20以下は認知症の疑いあり)
一見認知症と思われる症状でも、意識障害との鑑別が重要です。 すなわち知能そのものは異常なくても、意識レベルの低下している場合は認知症と間違われることがあります。 たとえば肝性脳症などは血中アンモニア等が上昇し、意識混濁を生じます。 また甲状腺機能低下症等ホルモンの異常や鬱病でも精神活動が鈍麻します。 慢性硬膜下血腫(頭部打撲などの後、脳の表面に血のかたまりが徐々に出来、脳を圧迫する)や正常圧水頭症(脳脊髄液の環流障害で脳室が拡大し大脳が圧迫される)でも知的レベルは低下します。 これらは原因治療により改善し、治療可能な認知症といえます。
MRI
MRI はMagnetic Resonance Image(磁気共鳴画像)の略で強力な磁場の中に身体を置いて、高周波磁場を照射し、組織から放出される電磁(MR信号)のデーターをコンピューター処理して画像化したもので、放射線の被曝の無い検査
VSRAD は海馬傍回(矢印の部分)の灰白質の体積を計算し、正常者と比べて萎縮しているかどうかを判定する検査で、アルツハイマー型認知症の診断に有用。
VSRAD
脳の中央下部に左右対称に2ヶ所、ピンク色で小さく丸く囲っている部分が海馬傍回の領域。写真は4mm間隔で冠状断(脳を正面からみた断面)に後から前に撮影されている。萎縮の程度は0.47で正常範囲(0〜1)のもの。
VSRAD の実際の写真
75才・女性(物忘れ出現1年後の軽度認知機能障害
VSRAD:0.38と海馬傍回の萎縮は見られない
長谷川式認知症スケールも26点と正常範囲
67才・男性(物忘れ出現10年後のアルツハイマー型認知症)
VSRAD:11.60と海馬傍回の萎縮は高度
長谷川式認知症スケールは測定不能のレベル
脳血流シンチ(e-ZIS)
放射線医薬品という人工的に作られた放射性同位元素(ラジオアイソトープ:RI)を静脈注射し、その自ら出す微量の放射線の量を専用カメラで検出し測定する検査で、本人及び周辺の人への影響は心配の無い検査。
アルツハイマー型認知症について:
いわゆる老年期認知症のなかで一番多いのがこのアルツハイマー型認知症です。 一般に認知症とは記憶障害に加えて以下の認知機能の障害を認める状態です。
すなわち1)時間や場所の感覚(オリエンテーション)の障害、2)遂行機能の障害(日常生活・社会生活・仕事などでうまく物事が出来ない)、3)言葉が話しにくい、理解出来にくい(失語)・手足の麻痺が無いのにうまく動かせない(失行)、事物が何か分からない(失認)。これらの症状はゆっくり出現し、徐々に悪化する経過をとります。
脳血流シンチ(e-ZIS:初期アルツハイマー型認知症診断支援用)による初期アルツハイマー型認知症患者の写真。
白い線で囲んだ部分が疾患特異領域でアルツハイマー型認知症で早期に血流低下しやすい脳の領域(血流低下部位は緑〜黄色の明るい色の部分)。
発症6年後のアルツハイマー型老年期認知症患者の脳血流シンチ。
長谷川式認知症スケールは9/30点で高度認知症の範囲。
頭頂部と楔前部の疾患特異領域は黄色〜赤色で高度の血流低下を認めている。
前頭側頭型認知症のMRI
前頭葉中心に高度の脳萎縮および、側脳室前角の拡大を認める。
前頭側頭型認知症の脳血流シンチ(e-ZIS)
前頭葉に高度の血流低下を認める(赤色の部分)。
レビー小体を伴った認知症の 血流シンチ(e-ZIS)
後頭葉を中心に血流低下を認める(黄色の部分)