耳鳴り・難聴

A)耳鳴り: 
  
  耳鳴りとは、明白な外部からの音の刺激なしに生じる耳の中(もしくは頭の中)で聞こえる様々な音の事です。 中枢性病変(耳の奥にある*蝸牛神経が脳幹に入り、そこから大脳の聴覚中枢である側頭葉までの線維連絡路の障害)よりは、末梢性病変(蝸牛神経や鼓膜から外耳道に至る障害)による耳鳴りが頻度としてはずっと多い様です。 耳鳴りは大きく分けて、他覚的耳鳴り自覚的耳鳴りがあります。
  *蝸牛神経とは脳幹にある第[脳神経(聴神経)のうち、機能的に聴覚に関係する神経。 めまいなど平衡感覚(身体のバランスに関与)に関与するのは同じ第[脳神経の中の前庭神経

a.他覚的耳鳴り
   
  患者本人のみならず、診察者にも聞くことの出来る耳鳴りです。 これには耳管・軟口蓋・顎関節部の動きや血流増加、大動脈・頸動脈の動脈硬化や狭窄、頭部や頸部にある*動静脈奇形や血管の腫瘍、腹部・胸部・頸部・頭部にある*動脈瘤などからの血流の振動が伝わる事などが原因となります。 拍動性(ズキン・ズキンと血管が脈打つ感じ)の他覚的耳鳴りは高血圧・甲状腺機能亢進症・頭蓋内圧亢進症などで生じます。 胸部をはじめ、頸部・頭部・耳周囲の聴診器による聴診や血圧測定、眼底検査などが他覚的耳鳴りの原因精査に必要です。
  *動静脈奇形とは、動脈と静脈の間に形成された異常な血管系をいう。
  *動脈瘤とは動脈血管壁の一部がふくらみ瘤となっている部分で、くも膜下出血等の原因となる。
  
b.自覚的耳鳴り
   
  患者本人のみに聞こえる耳鳴り(いわゆる一般的な耳鳴り)です。 これは*外耳、*中耳、*内耳、第[脳神経(蝸牛神経)から大脳皮質までの聴覚路の何処の病変でも生じ得ます。 騒音や薬剤の副作用による蝸牛神経の障害や、聴神経腫瘍(通常一側性)など、原因の明らかなものもありますが、通常は原因不明(加齢や難聴に伴う?)のものが多い様です。
  
  *外耳とは耳介(耳たぶ)と外耳道をいいます。
  *中耳とは鼓膜とその内側にある耳小骨の入っている腔をいい耳管により鼻腔とつながっています。
  *内耳とは蝸牛と三半規管、前庭をいいます。ここから蝸牛神経と前庭神経(この両神経を合わせて第[脳神経の聴神経となる)が生じ中枢に接続しています(下図参照)。
 


B)難聴
  
  難聴には病巣部位により、伝音性難聴感音性難聴とに分けられます。 伝音性難聴は外耳、または中耳の病気で生じ、外界からの音刺激が鼓膜を通じて蝸牛神経にうまく伝わらない状態です。 この種の患者さんは外部の音は遮断され、自分の声は大きく聞こえますので、ふつうの大きさか、やわらかい声で喋ります。 感音性難聴は蝸牛神経から大脳皮質までの神経経路の障害で生じ、この種の患者さんは自分の声も小さく聞こえますので、大きな声で喋るようになります。 


  耳鳴りや難聴の原因はいろいろですが、神経内科疾患に伴った中枢性(大脳や脳幹)の病変よりは、蝸牛神経より外耳に至る末梢性病変が圧倒的に多いと思われます。 耳鳴りや難聴のみの症状で他の神経症状(顔面のしびれや麻痺、頭痛やめまい等)を伴っていない場合は、まず耳鼻科を受診して精査をして頂き、必要があれば神経内科を紹介してもらうのが良いと思います。