救急外来に”めまい≠ナ運ばれてくる患者さんは、結構多いものです。 一口に”めまい≠ニいってもいろいろな原因、病像があります。 グルグル周囲が回転する回転性めまい(真性めまい)、少しゆらゆらした感じのめまい感(仮性めまい)、身体のバランスが保てず揺れる感じの平衡感覚の障害、身体が何となくしっかりせず浮いた感じのもの、起立性低血圧など脳循環障害(失神)等々です。 以下に、おもな”めまい≠生じる病気、原因について説明致します。
A)良性発作性頭位性めまい:
このめまいは頭の位置を変えた時にのみに起こる末梢性(内耳性)めまいです。 たとえば、ベッドで寝返りした時、起き上がった時や振り返る等、頭の位置を変えた時に急にグルグルと周囲が回転する激しい回転性めまいで吐気や動悸等、自律神経症状を伴います。 救急外来に救急車で運ばれてくるめまいの中でも、一番多いものです。 めまいを生じる頭の位置は決まっており、めまいの持続時間は30秒以内と短いものです。 中年以降の人に多く見られ、原因は不明ですが、過労等が誘因となっている患者さんが多い印象で、繰り返す人が多い様です。 めまいが生じている時、診察すると眼振(眼球の不随運動が上下、左右、または混合方向にリズミックに反復する。一般に急速に動く方向と緩徐に動く方向よりなり、急速に動く方向が眼振の向きと定義される。 水平性・垂直性・回転性眼振等と呼ばれる。)が認められます。 めまいが生じていない場合、発作を誘発するテスト(ナイレン・バラニ−手技)で診断ができます。 このテストは患者をベッド上で座位をとらせ、次に急速に後方へ
頭の位置がベッドの端より下になる迄倒し、首を45度右又は左に回します。障害されている耳が下の位置になった時、数秒後(潜時がある)に眼振が観察できます。 これを繰り返すと次第に症状(めまい)は軽くなっていきます(慣れの現象)。 この後、急速に患者さんを起こし座位に戻すと、逆向きの眼振が生じます(下図)。 このテストで首の回転のどの向きでも眼振が生じ、潜時や慣れの現象がなく眼振が持続するとか、めまいに伴った著明な吐き気や不快感を示さない場合は中枢性病変
の可能性があり、脳幹や大脳の精査が必要です。
B)メニエ−ル病:
”めまいの♀ウ者さんのなかには、”メニエ−ル病≠ナはないか?と行って来られる人が多く、それほどこの病名はよく知られているようです。 ”メニエ−ル≠ニはフランス人の耳鼻医の名前で、めまいを訴えことのある患者の剖検例で、初めて内耳の出血を見出し、めまいの病巣は内耳にある事を報告したものです。 これは耳鳴り・難聴・めまい(回転性)を繰り返す病気で、耳の閉塞感や強い音にたいしての過敏症を伴う事も多い様です。 この3主症状は必ずしも同時(同一発作)に起こらず、難聴もしくはめまい発作が数年間生じない事もあります。 大発作は15分から30分続き、吐き気、嘔吐を伴い、通常の生活を維持するのは困難となります。 小発作は”ふらつきや′yい”めまい≠フみで終わることもある様です。 発作間隔はいろいろで、短期間に何回も繰り返したり、数年間無かったりします。聴力検査では、低音部領域より聴力低下がはじまります。聴力低下は発作の間歇期には改善しますが、重症例では持続し、しだいに悪化します。 初発時は通常一
側性ですが、最終的には2−3割の例で他方の耳も障害されます。 原因は不明ですが非炎症性の内耳の病気で、形態学的に内耳の内リンパ管に過剰な内リンパ液が貯留することで知られ、内リンパ水腫といいます。 根本的治療法はありませんが、精神的なストレス、疲労、気候の変化や動脈の循環不全が関係すると推定されており、精神安定剤、ビタミン剤、脳動脈循環改善剤、自律神経調整剤などが使用されています。
C)前庭神経炎:
突然、回転性めまいが数日間続き、嘔吐・眼振を伴いますが耳鳴り・難聴を伴いません。 内耳のウイルス感染や高齢者では内耳の小血管の閉塞等が原因とも考えられていますが、根本的原因は不明です。 基本的には良性疾患で、感染病巣の治療に反応して治ります。
D)小脳橋角部腫瘍:
脳幹に入る第[脳神経(聴神経)から発生した腫瘍を聴神経腫瘍、聴神経を囲む周囲の組織から発生した腫瘍を小脳橋角部腫瘍といいます。 初期にはめまい・耳鳴り・難聴をを伴いますが、めまいは真の回転性めまいではなく、フラフラ感といったもので、反復性でなく持続性です。 腫瘍が大きくなると、小脳失調・顔面麻痺・角膜反射(眼の角膜を綿などの柔らかいものでさわると、その痛みで眼を閉じる反射)の消失や著明な眼振を生じます。 初期(腫瘍の小さい時期)の発見が手術をする時、顔面神経や聴力を維持する上で重要です。 聴力検査、脳幹MRI、聴性脳幹誘発反応(カチカチという音を聞かせ脳幹内での神経の伝わる電位の潜時を測定する)などの検査が必要となります。
E)その他:
めまいは薬の副作用(アミノグルコシド系抗生物質・抗けいれん剤・アルコ−ル・抗鬱剤・精神安定剤等)、頭部外傷後遺症、不整脈、脳循環障害、貧血、心因性のもの(ヒステリ−)、起立性低血圧、低血糖などいろいろの原因で生じ、そのめまいの特徴(真の回転性めまいから、ふらつき感、浮いた感じなど)も様々です。 症状によっては耳鼻科的精査はむろん、内科、循環器科、脳外科などの受診が必要かもしれません。 ”めまいも′してあなどれない症状です。