歩行障害について

 
 歩きにくいとの訴えで受診される患者さんは多く、その原因もいろいろです。 関節の障害や、外傷等でも、むろん歩行障害は生じますが、ここでは神経内科領域にしぼって考えていきたいと思います。 まずその症状の出現が急に生じたか、徐々に生じたかで異なります。 

急性発症の麻痺
 急に生じた片麻痺(右または左、同側の顔面を含む上下肢の麻痺)が原因の場合は脳血管障害の可能性が高くなります。 対麻痺(両下肢の麻痺)が急に生じた場合は脊髄(胸髄以下)の炎症や椎間板ヘルニア等の物理的圧迫、脊髄動脈の血管障害等が疑われます。 脳血管障害でも大脳頭頂部に障害があると、対麻痺になることがあります。 風邪等の後、1週間後ぐらいに両下肢の麻痺、しびれが生じるギランバレ−症候群は主に神経根(脊髄から末梢神経が出た起始部のところ)のアレルギ−性炎症で生じます。 

緩徐発症

 徐々に生じる歩行障害で神経内科で比較的多いものに、パ−キンソン病があります。 これは歩くとき小股でチョコチョコ歩いたり、坂道を下ろうとした時、小幅でだんだん足の出が早くなり前のめりになりやすい(前方突進現象)とか、方向転換がし難い等で気付かれます。 これとは逆に歩幅が広くなり、ヨタヨタとゆっくり歩き、姿勢のバランスがうまくとれない歩き方(お酒に酔ったときの様な感じ)は脊髄小脳変性症(小脳の萎縮する病気)の特徴です。 又、多発性脳梗塞(小梗塞が大脳の深部にたくさん出来る)、正常圧水頭症(脳の中を流れている髄液の循環障害で大脳の脳室が拡大し大脳皮質を圧迫する病気)や慢性硬膜下血腫(頭部打撲等の後で、大脳の表面に徐々に血の塊が増加していき大脳を圧迫する)等でもパ−キンソン病に似た歩行障害を生じる(パ−キンソン症候群)事があります。 進行性筋ジストロフィ−症等、筋肉の萎縮、脱力が徐々に生じ歩 きにくくなる病気もあります。

再発緩解型

 多発性硬化症という神経難病があります。 これは中枢神経のどこかに病巣(脱髄といって中枢神経線維の周囲を取り巻いている膜−髄鞘という−がアレルギ−反応により壊れる)が生じ、その症状の一部として下肢麻痺、失調、感覚障害等により歩行障害が生じる事があります。 これは一度改善して、また症状が出る(再発)する事が特長です。 また周期性四肢麻痺という病気は、血中の電解質であるカリウムが低下したり、増加したりして下肢を含む全身の筋肉の脱力が突然生じます。これも治療により改善しますが繰り返す事が多い様です。

その他

 この他にも歩行障害の原因はいろいろあり、その診断は他の神経症状及び神経学的検査による総合的判断が必要です。 整形外科、脳外科等で原因の分からない歩行障害は一度神経内科の専門医を受診してみて下さい。