子どもの睡眠


 最近、新聞で「赤ちゃんも現代人、夜型が増えている」との記事がありました。これは赤ちゃんにとっては良いことではありません。昔から「寝る子は育つ」ということわざがあるように子どもには十分な睡眠が必要です。 
 子どもの睡眠を話す前に大人の睡眠について少し説明します。人の睡眠は脳波上その深さによって1度から4度に分けられます。4度が一番深い眠りになります。この静かな眠りの他にレム睡眠というものがあります。それは静かに眠っている時に急に目玉がクリクリと動き出す急速眼球運動(Rapid Eye Movement略してREMレム)がみられる睡眠です。この眼の動きの睡眠をレム睡眠といい、眼の動きのない睡眠をノンレム睡眠といいます。
 ノンレム睡眠は動物型睡眠と呼ばれ大脳皮質の活性を反映し、その疲労回復と関係があるといわれています。またノンレム睡眠時に成長ホルモンが分泌されることがわかっています。赤ちゃんもよく眠ると発育がよいようです。これが「寝る子は育つ」の科学的証拠です。老人になるとよく寝ても成長ホルモンの分泌はありません。当然ですね。
 一方レム睡眠はノンレム睡眠の1度に脳波上似ていますが早い眼の動きがあり、植物型睡眠と呼ばれ呼吸や循環の中枢のある橋、延髄の活性度を反映し、その疲労回復と関係するといわれています。大脳が障害された植物人間でもこのレム睡眠はみられます。レム睡眠中に起こすと多くの人は夢を見ていたといい夢と関係のある睡眠といわれています。
 睡眠ははじめは1,2,3,4度と順に深くなり、3,2,1度と浅くなったり、レム睡眠に入ったり、また深くなったりして続きますが、レム睡眠は大体70〜90分間隔で現れます。従って一眠りというのは約1時間30分ということになります。
 睡眠の3,4度で起こされますと頭がボーとして働きません。しかし1,2度から起きた場合はすっきりと目覚めることができます。夜間の寝入りばなには、3,4度の睡眠が多く、ちょっとしたことではなかなか起きませんので泥棒にとっては都合のいい睡眠です。明け方には1,2の睡眠が多くなり、レム睡眠も長く続きますので明け方の夢は覚えていることが多いようです。
 赤ちゃんの睡眠時間は新生児は睡眠が16時間、覚醒が8時間と一生の間で一番よく眠る時です。新生児にはレム睡眠が多く睡眠の半分の8時間を占めこれも一生の間で最大です。これは生まれた後は自分で呼吸をしていかなければ生きていけませんので、新生児期は呼吸循環系の一番活発な時期で、その疲労回復と関係があり、レム睡眠が多くなっています。
 大人の睡眠は8時間、覚醒16時間で大人のレム睡眠は睡眠全体の20%です。老人になれば睡眠時間が減りますが、まずノンレム睡眠が減って後からレム睡眠が減るといわれています。

 生まれて間もない赤ちゃんの睡眠は、空腹になると目が覚めて泣き、お母さんから乳を飲ませてもらってまた眠るといった短い眠りと覚醒を繰り返すといった多相性リズムが特徴です。生後3ヶ月以内は夜昼関係なくお乳を与えたりオムツを換えたりしなければならないのでお母さんは大変だと思います。
 生後2ヶ月頃から睡眠のリズムが変わりはじめ、昼は起きて、夜は眠る傾向の単純なリズムになってきます。4ヶ月頃になってくると夜の眠りは昼の眠りの影響を受けにくくなります。子どもの睡眠の安定性は、この睡眠・覚醒リズムが急速に完成する生後3〜4ヶ月までの生活リズムに左右されます。この睡眠と覚醒のりズムは放っておいては発達しません。この間のきちんとした昼と夜の区別のある規則正しい生活が重要となります。
 赤ちゃんの睡眠が大人型の睡眠(1,2,3,4度,レム)になり始めるのは生後6ヶ月頃からで、夢を見て夜泣きが始まるのもこの頃です。昼寝の回数は生後8ヶ月頃には午前と午後の1回ずつ、1歳過ぎからは昼間に1回となります。
 瀬川氏によると、昼夜の区別ができないと、神経の回路がうまくつながらないため、行動や情緒、知能の異常をきたことがあるがその最初の表現が乳児期後半の四つ這いがきちんとできないことである。少なくとも2歳までに昼寝が午後1回になっているどうかも重要であり、それが十分と思われた児でも、三輪車のペダルをうまく踏めなかったり前かがみに歩くような場合には昼夜の区別がきっちりついていない可能性があると述べています。さらに4〜6歳頃で思い切って走り回る環境がないと問題が生じる。これらがすべてクリアされてはじめて、起きているときに使う神経と眠っているときに使う神経との役割分担が決まり、昼間十分に覚醒し、夜は深い眠りにつけるようになり、昼夜の区別かはっきりつかなければ、成人した場合の人格に影響を与えると述べています。この点を考えても子どもには身体を動かす遊びが最も重要と思われます。
 昼寝の後の目覚めについてみますと、レム睡眠又はノンレム睡眠1,2度からの目覚めの時が寝起きがよく、ノンレム睡眠の3,4度からの目覚めはボーとして気分が悪いようです。
 昼寝が午前に近いほど、その睡眠は1,2度が多い朝型となり、目覚め、寝起きが良いようです。一方昼寝が夜に近いほど3,4度の睡眠が多く夜型の睡眠に近くなり、寝起きが悪くよくぐずり、また夜の睡眠に影響します。従って、昼寝は午前中か、午後の早いうちにとるのが理にかなっています。最近保育所でも昼寝を午前中にとるところが多くなっています。

 眠くなった子どもの手は温かくなります。普通、身体や臓器の血管は自律神経(交感神経と副交感神経)に支配されています。交感神経が働くと血管は収縮してそこの血流量が少なくなり、副交感神経が働くと血管は拡張してそこの血流量は増えます。しかし手や足のような身体の末梢部の血管では交感神経しか来ていません。覚醒時には交感神経が優位で、睡眠時には副交感神経が優位になります。従って手が温かくなるということは交感神経の働くが鈍ってきているということになり、眠りが近いということになります。眠っているときは副交感神経が優位といいましたが、ただしレム睡眠の時は交感神経優位となっています。眠っている赤ちゃんのチンチンが大きくなったりしているのはレム睡眠の時です。お母さんが「この子おませちゃんね」と思ったりする時はレム睡眠中ということになります。

 目覚めと睡眠は互いに影響し合います。睡眠が十分でないと目覚めが悪く、夜遅く起きていると睡眠に影響して、次に翌日の目覚め・覚醒に影響します。「昨日夜更かししたので今日は寝不足でだるい」というのは夜更かしという悪い覚醒状態が睡眠に影響してその翌日の覚醒にも影響を及ぼしているのです。ある時間を超えて起きていると眠りにくいことがあります。子どもにも大人にも良い睡眠のためには良い覚醒が大切で、規則正しい覚醒・睡眠のリズムが重要です。お父さんの帰りが遅いのでいつまでも子どもを遅くまで起こしておくことは子どもの睡眠に悪い影響を及ぼし「寝る子は育つ」を邪魔していることにもなります。
 朝、子どもが自分で起きてくる時は睡眠が足りていると思われます。起こさないと起きられないのは睡眠不足です。子どもが自分で目覚めることができるように早く寝かせて上げて下さい。

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