SARS事例の臨床的特徴と背景

病因
 重症急性呼吸器症候群(SARS)はSARSコロナウイルス(SARS-CoV)により引き起こされる病気です。

疫学
 SARSの集団発生の顕著な特徴は、SARS-CoVの病院内感染です。症例のほとんどは成人で、小児の患者はほとんどみられていません。

潜伏期は2〜10日、平均5日です。より長い潜伏期の報告もいくつかあリます。発病前の患者さんから感染が伝播した報告は、今までのところありません。

病気の自然経過
発病第1週
 患者さんは最初に、インフルエンザ様の症状で発症します。発熱、倦怠感、筋肉痛、頭痛、戦標などを含む症状を示します。特異的な症状、あるいは症状群は確認されていません。発熱が最も頻繁に報告されるが、初期の検温では見られないこともあります。

発病第2週
 咳漱(初期には乾性)、呼吸困難、下痢は発病第1週にも見られますが、一般的には第2週目により多く報告されています。重症例は急速に呼吸窮迫と酸素飽和度の低下が進行し、約20%が集中治療を必要とします。多くの患者さんが、血液や粘液を含まない、大量の水様性下痢を発症します。感染の伝播は主に発病第2週の間に起こります。

臨床転帰
 カナダ、中国、香港特別行政区、シンガポール、ベトナム、米国からのデータの分析によると、SARSの致死率(CFR)は感染した症例の年齢群により、0%から50%以上までの範囲に渡り、全体としてはおよそ11%と推計されました。男性と、基礎疾患があることが高死亡率と関連付けられています。

高者ならびに小児の症例と、妊娠とSARS
 高齢者における特別な問題点として、発熱無しでの発症や、細菌性の敗血症または肺炎の併発のような、非定型的な発症の仕方が取り上げられています。慢性の基礎疾患があることと、他の年齢層より頻繁に医療施設を利用することの両方が、当初確認できなかった院内感染の伝播の事例に繋がリました。

 小児にではSARSの発生頻度は低く、より軽症でした。

妊婦のSARS症例では、妊娠初期には流産の、妊娠後期には母体死亡の増加に繋がっていることが示唆されました。

放射線学的所見
 呼吸器徴候が無い場合にも、ほとんどの患者で、初期の胸部レントゲン写真あるいはCT上の変化が、早くて第3〜4病日に見られる。典型的な所見は、片側の末梢肺野の孤立斑状硬化影の出現に始まり、陰影の増多またはすりガラス様陰影へ進行する。移行性の陰影もある。さらに進行した病期では、時に自然気胸、気縦隔、胸膜下線維症や嚢胞性変化などを含む所見がみられることがある。

血液学的および生化学的所見
 SARSに特異的な血液学的、生化学的所見はありません。しかし、以下に示すような事項が繰り返し注目されています。

血液学的所児
 低リンパ球血症が一般的に見られ、病状の進行と共により顕著になります。時に、血小板減少症とAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)延長が見られます。

生化学所見
 LDH(乳酸脱水素酵素)はしばしば高値を示し、いくつかの報告によると予後不良との関連が示唆されている。GPT)、GOT)、CPKの上昇の報告はそれより少ない。初診時あるいは入院中に、低ナトリウム血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症、低カルシウム血症を含む、血清電解質の異常も報告されています。