診察室にて(雑感)

1.「注射様々」

  診察室入ってくる度に「今日は注射ないね」と念を押して入ってくる男の子がいます。そのたびに「今日は注射はしないよ」と安心させ診察に入ります。このように小さい子にとっては注射は恐怖の最たるものでしょう。

 注射に対する反応も年齢によって違っています。6ヶ月頃の赤ちゃんは注射をするまでは何もないのですが注射の後で泣き出す子、平気な子など様々です。8ヶ月ぐらいになると前の注射の記憶があるのか私の顔を見た途端にいやな顔をしたり泣き出す子がでてきます。本当は逃げ出したいのでしょうがお母さんに抱きしめられているので仕方なく注射をされてしまいます。

 これが1歳6ヶ月頃になって歩けるようになり、自分の力でその場を逃れる実力が付くと、お母さん振り解いて逃げようとしますがまだお母さんの実力には負けて泣きながら注射を受ける羽目になります。
 3歳ぐらいになると、事情が理解できる子は比較的おとなしく注射をさせてくれる子がいます。一方、嫌がる子もいます。このような子に力ずくで注射をしますとこの後が大変で、母親に裏切られた腹立たしさからか、しばらくの間待合室で母と子の激しいやりとりが行われ、怒りの泣き声がしばらく続き、次第に泣き声が弱くなって自分の意志に反して注射を無理やりにされたという無念の感情が残るのか悲しい泣き声に変わって行きます。壁越しにこんな状況を聞くと注射をしたものにとってはやりきれない感情が襲ってきます。この年齢の注射が一番辛く母と子の絆を裂く行為のようです。やはり注射についてうそを付かずに十分に理解させておいてほしいものです。 
 
 小学校の生徒はほとんどが問題なく注射を受けますが、中には注射の痛さが自分の中でどんどん大きく膨らんで恐怖感が先に立ち,どうしても注射を受ける気になれない子もいます。この年齢になると親の実力と拮抗しますので無理やりに行うことは不可能です。時間をかけて説得にかかります。注射針の大きさを色々見せて「一番細い針でするから痛みはほとんど感じないよ」とか「針のはいる瞬間だけ痛いが後は大丈夫。絶対にうそはつかないから」など何回も説得を繰り返します。本人の納得が得られないとこの年齢では注射は無理です。説得に30分から1時間もかかることもあります。説得の甲斐あって注射を済ますと「全然痛くなかった。」という子の方が多いのですが、「やっぱり痛かった。」と言う子もいます。こんな風に納得と信頼関係ができるとその後注射は問題なく行うことが出来ます。
 
 一般に不活化ワクチン(三種混合、日本脳炎、インフルエンザ)は痛く、生ワクチン(麻しん、風しん、。おたふくかぜ、水痘)は痛みが少ないようです。自分の経験でもインフルエンザワクチンでもメーカーによって痛みの程度が違います。メーカーには痛みの少ないワクチンを作ってくれるようにずっと頼んでいるのですが、それに答えてくれるメーカーは今のところありません。痛くないワクチンを宣伝文句にすれば他のメーカーものよりきっと多く使われる思うのですが。こんなことを考えながら今日もワクチンを奨めています。

2.テレビ出演


 診察室に入ってくるなり「先生テレビに出てたね。」と子どもの患者さんに言われ、その後もお母さん方から「先生見ましたよ」と冷やかされる羽目になりました。やむなく、ことの顛末を白状しなけれならなくなりました。
 事のはじめは、大学の小児科医局時代からご指導していただいていた先生が病気で入院され、急にテレビ出演の話が回ってきました。元々人前で話すのは苦手な方でできればお断りしたかったのですがお世話になった先生の代理なので断ることもできず引き受けてしまいました。

 この番組は、和歌山県教育委員会の企画提供で和歌山テレビが制作・放送するもので、テレビ育児相談「健やか子育て」というシリーズもの日曜日の朝9時30分と水曜日の朝8時45分から15分間放映されるものです。
 自分で話す内容を企画できるというのでこれなら何とかなるだろうと思っていましたが、当日ドーランを塗りメイクを済ませて、いざ録画撮りになると収録時間の13分にまとめなくてはならず、一回目は3分オーバー。
 2回目は、2分不足となかなかうまく行きませんでした。録画中に手を回して「早く」とか両手を広げて「ゆっくり」とか、その中に「もう少し顔を上げて」とか「司会のアナウンサーの方をみて話して下さい」とか注文がでますし、なかなか大変な仕事でした。

 1回目は、「アレルギーについて」という題で無我夢中で収録を終えました。その後で再生ビデオを見たのですが、無表情で、自分で思っているより年のとった顔に驚き、目線に落ち着きがなく、時折変な方に眼をやったりしてキョロキョロしている有り様でした。
 2回目は、子どもと健康という題で、「発熱と熱性けいれん」について話をすることにしました。
 これについてはいつもお母さん方にいつも話していますので1回目よりは落ち着いてできるだろうと思っていたのですが、これが大きな間違いで、録画撮りに3回も失敗してしまいました。

 ビデオ取りは午後1時45分から行われたのですが3回も失敗すると時間も3時近くなり、午後の診療開始時間3時が気になりだし自分の作った原稿なのに何を言っているのかわからなくなり一時パニック状態に陥りました。
 司会の女性アナウンサー「下を見て原稿を読んでも画面ではあまり気になりませんよ」との一言でやっと落ち着き収録を済ませた有り様で満足できるものではありませんでしたが一応「OK]が出てやれやれといった状態で帰ってきました。
 診療所に着くとすでに4時を越えており多くの患者さんにご迷惑をかけてしまいました。急いで診療を開始したのですが、後でドーランを落とすのを忘れているのに気づき大変恥ずかしい経験をしました。
 最後にテレビ局のスタッフのご指導に感謝します。


3.最近気になる事

診察室での子どもを診ていて気になることで、人に会ったり別れたりするときの交わす言葉や動作としての挨拶をしない・できない子どもが増えたように感じます。診察室に入ってくる際に自分から挨拶をする子どもは可愛いものです。その保護者は一般的にいってよく挨拶をします。こちらから声をかけても挨拶しない子や視線を合わさない子もいます。恥ずかしがりや人見知りのためでしょうか。待合で名前を呼んでも返事をしない親御さんも増えているように感じます。このような違いはどこから来るのでしょう。

生後間もない赤ちゃんの能力を示す例として、赤ちゃんの目の前で母親が舌を出すなどの動作をした場合に赤ちゃんも同じ動作をまねることができるというのがあります。新生児の模倣動作ですが、どうしてこのような動作をするのかわかっていません。

最近の認知神経科学的研究から提唱されている「ミラーシステム」という概念があります。ミラーシステムとは、自分がある運動をする場合と、他人がその運動をしているのを見る場合の両方で、同じように活動する神経群があるということです。すなわち、運動の発生とその運動の認識に同じ神経システムが関与しているというものです。ミラーという表現は他者の行為を「なぞる」という意味合いから用いられています。人がある動作を認知する際にそれを自分自身の行う運動パターンを基に理解するもので、ある動作を見た場合にそれと同じ動作を頭の中で「なぞるシステム」があるというものです。このシステムは言葉の獲得や共感・コミュニケーションの発達に密接に関係するといわれています。

この考えからすると新生児の模倣動作は赤ちゃんが母親の動作を認知する際に頭の中に同じ動作の活動が起こり、それを行動に写しているのかもしれません。親が怒った表情を見せると、子どもの頭の中にも自分が怒っている神経の活動が作られ、また親が微笑めば、子どもの頭の中でも微笑むという状況が作られるとも考えられます。そうだとすれば、子育てにはバランスの良いイメージを与えることが必要で、子どもは行動の手本を大人の振る舞いから、特に親から学ぶことになります。

最初に述べました挨拶の問題なども、このような親と子の関係が子どもの(しつけ)大きな影響を与えてい考えられます。皇太子さんの育児談話の中で紹介されたドロシ−・ロ−・ノルトの育児書「子どもが育つ魔法の言葉」の中の子どもは親の鏡」という詩にも親の振る舞いについての注意事項を挙げています。

家庭をつくるということは一種の公共的な活動であるという意識が希薄になっています。子どもを作った以上その子をしっかり育てるということが社会的な立場に直結する。そういうことがこの国では失われてきているのではないでしょうか。

「子どもは大人の振る舞いから学ぶ」はありきたりの言葉ですが、子どもの子育ちの手本となるような振る舞いを大人として行いたいものです。

4.天空のバラ園(ちっとおおげざ)

余暇に屋上でバラの鉢栽培を始め、最初は1本でしたが、毎年少しずつ増え現在100株ほどになりました。ヨーロッパ旅行の際に立寄ったパリのバガテル公園ロンドンのキューガーデンで見たバラ園に魅了されたことがバラ栽培のきっかけです。
 この10年で知ったバラの病気や害虫への対処法の他にバラの雑学も少し増えましたので少し紹介させてください。
 それから5月から7月にまた10月から11月に診療所の玄関や診察室にバラの切り花を飾っていますので見てやってください。

 バラが地球上に現れたのは5000万年以前と言われ、種類も多くバラの歴史はとても古いものです。歴史上初めて登場したバラは、紀元前2000年紀初頭「花の香りを嗅ぐ女神」(ルーブル美術館所蔵)が手に持っているバラとされていますが、その女神のポーズは孫娘が両手で持って花の香りを嗅ぐ時のポーズと同じで面白いものです。
 
 
バラは、種類も多く25千種以上もあるといわれています。大きく分けると「オールドローズ」と「モダンローズ」とに分けられ、 オールドローズは、野生のバラも含めて、1867年(パリ万国博覧会)以前に作られたものをさします。ヨーロッパの庭園で栽培されていたオールドローズは、切花としてではなく、つるや茎まで、バラ全体の姿を楽しむものでした。 モダンローズは、ラ・フランスをはじめとして1867年以降に作られたバラで、1年に1度しか咲かないオールドローズと違い、長く花を楽しむことができる四季咲きが多く、剣状高芯であることが大きな特徴です。

 丈夫で育てやすいモダンローズの中でも、色々な系統があり、代表的なものは、ハイブリッドティー系です。四季咲きで大輪の花をつけ、種類は豊富で、5月から12月頃まで花を咲かせます。花壇の演出に最適なのは、フロリバンダ゙系で、 四季咲きでの中輪の花をつけるバラで、色や形は多種多様です。バラには一重のものから八重咲きのものまであり、現在のバラは観賞用に品種改良され、おしべが花びらに変わったものです。その証拠に、原種(花弁が少なくおしべが多い)も現在のバラも、花びらとおしべの数を足すと、どちらも180前後でほぼ同じということです。

 バラの分類は
 @咲くでの分類として、
  春咲き:春に一度咲く(一季咲きともいう)つるバラやオールドローズに多い。
  四季咲き:春から秋にかけて切り戻すことで約1ケ月ごとに咲く。
  返り咲き:春一度咲いて。その後秋までの間にもう一度咲くことがある。 
  繰り返し咲き:春一度咲いて、不規則に咲き続ける。
 A樹形での分類
  木立(ブッシュ)タイプ
   ハイブリッド・ティ(四季咲き大輪種):枝の先に大輪の花が咲きます。
   フロリバンダ(四季咲き中輪種)枝の先に数輪が房咲きになります。
  つるバラ:枝が長く伸びる、壁面などの誘引して楽しむ。
  シュラブ:やや高性の低木又は半つる性のものです。
  ミニチュアローズ:樹形、花が小さいバラをいいます。

 最近、人気があるのは、イングリッシュローズで、デビット・オースチン氏がオールドローズとモダンローズの交配によって生まれたものです。両者の良い部分を受け継いでおり、オールドローズの古典的な花の形と良い香り、モダンローズの多彩な花色がありますが、若干高価なことが難点です。
 シャンソン歌手エディット・ピアフの名曲に「La Vie En Rose(バラ色の人生)」というのがあります。このバラ色とはどんな色かな?と考えてしまいました。フランス語で「Rose」というと赤と白の間を意味し、「Rose」がピンク系色の総称のようです。ピンク色のワインが「ロゼRose」と呼ばれるのも、これで合点がいきますね。
ピンク色が女性ホルモンの分泌をうながす若返りの色として注目を集めたり、さまざまな生活のシーンのなかに積極的に取り入れられ、好きな色の上位にランクされるようになったのは、ごく最近になってからのことのようです.

 バラの花の色は、中世にはキリスト教との関係で赤と白が主流でしたが、現在では赤、白、黄、オレンジ、ピンクと多彩です。しかし本当の青色のバラはありません。
 花の色は、主に赤の「シアニジン」、オレンジ色の「ペラルゴニジン」、青の「デルフィニジン」という成分の含有量により決まります。そして黄色のフラボン、フラボノール。これらの色素のもとになる化合物(アントシアニン)は同じですが、植物が持つ酵素の働きにより、実際にどの成分が合成されるかで色が決まります。従来種のバラは、デルフィニジンを合成するために必要な青色酵素を持たないため、青いバラは存在しませんでした。最近、サントリーで青色のバラが開発されました。青色酵素の遺伝子をパンジー(三色すみれ)の青い花から抽出して、従来種のバラに組み込むことで、花びらにデルフィニジンを含む「青いバラ」が出来たということです。来年には発売されるとのことで楽しみにしていますが、きっと高価なものになるでしょう。

 バラの花には、540以上の香り成分を含んでおり、種類によって多種多様で、ほとんどがベンゼン環化合物とペンテル化合物の形をもっています。前述の「花の香りを嗅ぐ女神」が手にしたバラはロサ・ガリカとされ、その子孫がロサ・ダマスセナで香りがきわめて強く現在のブルガリアを中心に香水原料として栽培されています。その後、古代バラから現代バラまで香りの遺伝子は連綿と伝えられ現在に至ります。

 バラの香りも分類すると@ダマスク・クラシック(オールドローズや原種に多い香りで、甘く華やかな古典的な香り:芳純、セシルブルナー)Aダマスク・モダン(ダマスク・クラシックの香りがより洗練され、情熱的になったもの。香水、化粧品などで使われる:パパメイアン、ネージュパルファム)Bティー(紅茶に似た香り。中国系のバラにルーツを持つ上品で優雅な香り:桜鏡、ジオラマ、レディ・ヒリドン)Cフルーティー(ピーチやアプリコットなどを連想させる爽やかで瑞々しい香り:ダブルディライト、ドゥフトボルゲ、ホワイト・クリスマス)Dブルー(ダマスク・モダンとティーの香りが混在する青系のバラに特有の香り:ブルームーン、シャルルドォゴール、ブルーパーヒューム)Eスパイシー(ダマスク・クラシックに刺激的なクローブの香りが混ざったような香り:ハマナシ、デンテーベス)Fミルラ(ダマスク・モダンやティーにフェンネルの香りが混じる:イングリッシュローズ特有の香り:セプタード・アイル)の7つに分けられるようです。蓬田勝之氏が世界で初めてバラの香りをこの7タイプに分類したということです。
バラの香りはヨーロッパでは古くから女性たちに親しまれてきました。香りは鼻から体内に入った微量の揮発性成分(香り成分)はいずれ脳に到達します。まずは感情や記憶を司る大脳辺緑系に、続けて自律神経や免疫、ホルモン系をコントロールする視床下部に影響を与えます。バラの香りの効能は体のケアやリラックス効果や記憶に良いといわれています。

 バラのトゲは厄介なもので、引っ掻き傷が絶えません。トゲと香りには関係があると昔から信じられ
、「バラにトゲがなければ、香りはない」とか「きついトゲを持っているバラはよい香りのする」とかいわれてきました。確かにトゲが殆どないモッコウバラやスプリングパル(春霞)、群星などの香りは、淡い傾向にはあるようです。「香りのないバラは笑わない美人」とも言われるように、香りのあるバラはやはり人気があり、 トゲのきついバラが多いようです。「美しいバラにはトゲがある」との例えも意味が深く、男なら刺されてみたい気もするのもあながち否定できないのではないでしょうか?

5.紙芝居

 平成24年2月に3人目の孫ができ、賑やかになりました。妻がドイツに住む娘の産後の手伝いに行きました。その2か月間、妻との連絡はスカイプを通じて行っていました。孫たち(5歳と3歳)はおばあちゃんに(妻)に本を読んでとせがむそうです。そして日本いる私は、スカイプを通じて、孫たちに紙芝居をしてやることを始めました。そのうちに診療時間内で、小さな患者さんにも紙芝居を楽しんでもらえるようになり、紙芝居の数も50を超えるようになりました。
 
 一度、紙芝居を経験すると、次の診察の機会に、「また紙芝居して」と求める子どもがいます。他に患者さんがいるときは、やむを得ず「ごめんね、また次の時にするね」と断りますが、よく聞き分けてくれます。気に入ったものを何度でも求める子どもと、1回でほかのものを求めること様々です。

 子どもたちは、面白い言葉が好きなようで、「ちょろちょろぱっぱ、ちょろぱっぱ」、とか「ぺちゃくちゃ、くっちゅーん」などはすぐ覚えます。2〜3歳の子どもは、小さな動物の紙芝居、自分で声を出して参加できる子ども参加型のものや特にお母さんが出てくる紙芝居は人気があります。

 狸が化けたり、きつねに化されたりする紙芝居も人気があります。米朝落語の「七度狐」の紙芝居もあり、米朝風に「ふーかいか、あーさいか」の声色も工夫して、演じています。落語からの紙芝居は年長さんから小学生まで結構面白がってくれます。女性の声からおじいさんの声、動物の鳴き声など無声映画の頃の活弁士気取りで演じています。紙芝居が終わると親子で拍手をしてくれるので、楽しい時間を共有できます。 

 古来より、日本には「絵解き」と言って、絵を見せながら物語を語って聞かせる伝統がありました。「源氏物語」にも、女房が姫君たちに絵巻を見せながら物語る場面が出てくるそうです。
 
 紙芝居は、今から
75年ほど前に、街頭での紙芝居という形で日本に誕生したと言われています。戦前には、紙芝居の生みの親と言われる高橋五山さんが保育教材として「幼稚園紙芝居」や「仏教紙芝居」を発刊していました。。
 当時の紙芝居は、駄菓子を売るための人集めの道具だったため、手書きで子ども興味を引くようなものが多く、作家が自分の人生をこめて作品を作るという姿勢から生まれた作品内容ではありませんでした。
 私も、小さい頃に路地で自転車につけた紙芝居を見た思い出があります。昭和20年代がピークだった言われてますが、最近のお母さんたちも見た(?)経験があると言います。
 
 や
がて、街頭での紙芝居は、衛生面の問題もあり、すたれていきましたが、その後、出版紙芝居が作られるようになったようです。出版紙芝居は、表面的なおもしろさやウケではなく、楽しさの奥底にある人生をうたいあげる文化として、作家が追求するようになり、現在に至っています。
 
 紙芝居の歴史は、絵本に比べると短く、創作も研究も比較にならないほど少ない状況ではありますが、紙芝居も絵本も、歴史的な歩みの中で研磨されたものが、本物の文化として、存在してきたようです。
 
 まついのりこさんが紙芝居をベトナムに紹介したのに始まり、
現在では、紙芝居の良さが理解され、アメリカ、フランスなどに広がっています。

 現在、当院の手持ちの紙芝居は、子供参加型、日本の名作、むかしばなし、お話し、日本の五大昔話、松谷とよこ珠玉集、日本の名作、世界の名作、自然など77作品になります。(目録)
  
 紙芝居作家の中には、ゲゲゲの鬼太郎で有名な水木しげるさんや和歌山県出身の松井紀子さんもいます。アンパンマンの作者のやなせたかしさんの「早寝、早起き、朝ごはん」の紙芝居もあります。

 紙芝居をみる子どもたちは、作品への共感によって作家の世界を自分のものにすることができます。作品内容への強い集中が作家の世界への共感の土台となりますので、落ち着いた環境が求められます。また人の話を集中して聞く訓練にもなると思っています。
 
 演じ手と子ども、子どもたち相互のコミュケーション、双方向性の一体感の中で作家の世界への共感が深まり強まり、これらによって子どもたちに共感の感性が育まれていきます。


  基本的に、子どもが選んだ作品をするようにしていますが、子どもが、紙芝居に集中できない(特に男の子)ときは、お母さんが申し訳なさそうに聞いてくれますが、逆にこちらが理解ができないものを選んでしまったかなと反省しきりで、このあたりが難しいところです。

 紙芝居は、日本の独自の文化財であるという思いで、優れた紙芝居作品が、上手い(?)演じ手によって演じられ、 共感の輪が広がっていくことを期待して毎日努力をしています。

6.そば打ち挑戦の記録

小児科教授の退官祝賀会の会場で、大学病院の院長先生から手打ちそばについての話を聞き、その奥深さに興味を持ちました。同じ頃、和歌山県医師会理事の食通の先生から、そば屋さんにもミシュランの星をとったところがあるとか、和歌山市では,神前のそば切り[かなや」とか屋形町のそば切り「徳」などが美味しいと聞き、ますます興味が深まってきました。

それで、そば打ちを始めようと思い、そば打ちを教えてくれるところ(そば打ち道場)を探しました。海南市のわんぱく公園でそば打ちの講習会を行っていると聞いて、赴いたのですが、今年はそばを栽培しなかったため、行っていないとのことでした。その後も各方面に当たってみましたが、和歌山市近辺では見つからず、インターネット検索で、有田郡広川町の「ほたるの湯」で講習できることがわかり、電話をしてみましたが、講師の方が辞められて今はやっておらず、再開することはないとのことでした。

そうこうしているうちに、インターネットで、そばマシーン「いえそば」(タカラトミー)というものに辿り着き、そばマシーンについての口コミを見ますと水回しが簡単で、入門者には適していると感じましたので、早速、アマゾンを通じて購入しました。

この機械には、水回しと麺延し、麺切ができる装置が組み込まれています。水回しは、この装置では、そば粉200gを入れ、一度に水がそば粉と混ざらないように水を滴下しながらそば粉をかき混ぜるようになっており、水を比較的均等に加水させることができます。その後、まとまったそばを取り出し、捏ねてまとめていきます。これを2つに分け、それぞれを7141pに伸ばし、マシーンの麺延し機にかけます。3回延し1030pほどになったものを、麺切装置にかけ、そば麺が出来上がるというものです。

俗に、そば打ちは、水回し(加水)3年、延し3カ月、切り3日と言われます。その水まわしが簡単に行われるという謳い文句で、これで3年は短縮できるかなという期待も持ちました。

とりあえず、信州の初心者用そば粉セット(ロール挽き、石臼挽きでつなぎ粉とそば粉を2837の割合で配合したもの各2種類計4種類)を購入しました。

石臼挽きのそば粉で,加水率(そば粉に対する水の量)を製粉メーカーの指示通りの45%とし、加水する装置で水回し行いましたが、そばをまとめる段階でボソボソした感じとなりました。そばマシーンの麺延し機で3回(厚め1回、薄め2回)延すのですが、薄めの伸ばしの2回目となるとそばの縁に細かい亀裂が入りました。これをマシーンのそば切り機にかけますと、縁の方がボロボロと切れ、真ん中の方はかろうじて繋がった状態となって出てきました。しかし茹でてみるとすべてが3cmほどに切れており、そばといえるものではありませんでした。そば自身は、短いそばですがそばの香りがして蕎麦屋さんものより美味しく感じました。確かに水まわし3年といわれるように加水加減が難しく感じました。

2回目は、同じそば粉で、今度はそばマシーンのメーカーの説明通りの加水率50%で行いました。水回しの段階から前回と異なり、そば粉が粒状から塊にまとまり、練りの段階で手にしっとりつくような感じでまとまりました。3回の延した後、そば切りを行っても切れず、茹でても切れていない立派なそばとなりました。

3回目は、ロール挽きのそば粉で、製粉メーカーの加水率は石臼挽きに比べが少ない42±2%を推奨していましたので44%の加水率で行いました。今回も粉が粒状にまとまらず、水5mlを追加して最終的に46.5%とし、やっとまとまりました。今回も延しの段階で木地の縁に亀裂が入るようになり、案の定、麺切機を通すと短くきれ、茹でると1回目と同様の状態になり、今回も加水不足と判断しました。

石臼挽き粉に比べると、ロール挽き粉は香りが弱いと感じました。加水率は,そば粉の挽き方(石臼挽きはロール挽きより加水が多くなる)つなぎの割合(つなぎ粉の割合が少ないほど加水が多くなる)、気温、湿度で微妙に変わることが8回の経験でわかりました。

この製粉所のそば粉は、そばマシーンを用いる場合は、石臼挽きは加水率50%前後、ロール挽きは加水率48%前後が良いという結論になりました。(手打ちの場合は、製粉メーカーの指示の加水率で良いのかもしれません。)

そばの茹で時間は、30秒、1分、130秒、2分と試しましたが、30秒〜1分後でコシがあり、喉越しも一番よいと思いました。
そば汁は、かえしと出汁を13の割合混ぜたものとし、薬味は、ネギ、わさびと辛味大根のおろししたものとしました。

その後、同じ製粉所の28石臼挽きそば粉を購入して、週1回のペースで5回ソバ打ちを行い、そばマシーンでのそば打ちは、加水の加減がほぼ失敗なくできるようになりました。

そうなると、機械に頼らず、自分の手で水回しや延しを行う手打ちそばを打ちたくなり、大阪難波の道具屋筋にでかけ、そば道具の、のし棒、こま板、麺切庖丁、ボールを買い揃え、本格的な手打ちに挑戦することになりました。

 水回しの加水加減は、そばマシーンである程度分かってきましたので、信州「寒ざらし」の石臼挽きそば粉2:8で、加水率50%で始めてみましたが、水回しの段階で、まとまりが悪く調整加水6mlほど追加し、最終的には加水率53%となりました。そば粉が違うとその都度、加水の微調整が必要ですが、これは粉の状態を見てできるようになりました。

水回し・加水のやり方はいろいろあり、加水の全量を一気に入れるもの、分割して入れるものなどあります。最終的にたどり着いた一番安定した加水法(かないまる式)を紹介しますと、加水を2段階に分け、最初の分散加水は、加水全体の80%を用い、1分以内に水を粉全体に分散させ、更に加水全体の10%を加え、そば粉がパン粉状になるように水を分散させます。次の段階はくくり加水で、7%を加水しますと、粉が大豆大、空豆大となり次第に塊が大きくなってきます。最後3の加水は、調整加水と呼ばれ、そばの様子を見ながら少量ずつ加え、自然に大きな塊になる段階まで数滴ずつ加水して行きます。用意した水を使い切っても塊にまとまらない時は、更に12%加水します。その後、加圧しながら(菊練り)そば玉をまとめます。
 最近は、加水から10分程でまとめることができるようになりました。分散加水の技術が上がるにつれ、加水率がわかったそば粉では、一発(一気)加水を行うことができますので、短時間でまとまりますし風味も良いように思います。 

うち粉は、そばを延す時やそば切り時に必要ですが、その量の加減が、そば切りの段階でのこま板のスムーズな動きや茹であがりのそばのつるつる感に影響します。少な目より多めのほうがよく、味の点を考えますとうち粉に友粉(同じそば粉)や御膳粉を用いるのがよいようです。

そば切りは、こま板を用い、こま板の沿って垂直におろした包丁を斜めに押すとこま板がずれ、次に切る麺の幅が出るのですが、包丁の倒す角度のばらつきで麺の太さにばらつきが出ます。まず3pを15回で進む麺の太さ2oを目標(最終的には1.5o)に練習するのだそうです。(後日、こま板が垂直ではなく、斜めに1.5o切り込んだものを購入しました。これは斜めに切り込んだ後、包丁を垂直に起こすことで、こま板を1.5o進め、次の切幅が出ますので安定した麺の幅を切ることができます。)うち粉が少ないと、そば切の際に切ったそばが包丁にくっつきスムーズに運びません。

 二八そばの手打ちを4回無事終了し、次にそば粉100%の生粉打ちに挑戦しました。信州そば「寒ざらし」200gの加水率は54%と予測して始めましたが、結果は、分散加水86ml、10mlくくり加水7ml、2ml計105mlで、加水率は52.5%となりました。

生粉打ちは、つなぎ粉(小麦のグルテン蛋白)を使わないので、そばの蛋白質と水の粘性を利用してそば粉をつなげるわけで、最初の分散加水を素早く丁寧に行うことが重要とのことです。この点に留意して行い、初回にしては比較的うまくいきました。

茹で時間は、比較的大きな鍋(4リットル以上)で、生粉打ちで水練りの麺では、1人前ずつ熱湯に入れ、標準太さ(1.3mm)で、投入後40秒、太麺(1.5mm) で50秒程度です。細い麺(1.2o)で34秒程度としています。初心者は太麺になりがちですので4050秒がよいようです。

現在用いているそば粉(並み粉)は、二番粉(中層粉)を用いていますが、そば粉の種類はいろいろあります。

1番粉は、更科粉(御膳粉)とも呼ばれ、そばの内層部の粉ででんぷんが多く白いもの。2番粉は、中層粉、胚乳と子葉(胚芽)の一部が主体、うす緑黄色で香りが高く風味に優れるもの。3番粉は、表層粉、胚乳の一部と子葉(胚芽)と種皮(甘皮)の一部、やや暗い青緑色で香りが強く栄養価が高いが味と食感に劣ります。

更科粉は、御膳粉ともよばれ、厳密には玄そばを挽き抜きした際に大きめに割れた「上割れ」だけを用いた粉ですが、俗に一番粉を主体とした白っぽい内層粉もしくは一番粉のみで作った粉を指すこともあります。

丸抜きは、ほぼ同じ大きさにそろえられた玄そばから、殻を取り除いた状態のそばの実を言います。淡い緑色の皮に覆われ、新鮮なものほど色が鮮やかで、古くなると茶色がかった色になります。これを石臼で碾いて粉にしたものを、「挽きぐるみ」といいます。挽きぐるみは、抜き実もしくは玄そばを直接ひいた粉を篩で調製したものです。つまり、一番粉、二番粉等に分けたものをあわせた粉ではありません。製粉所では、適切にふるい分けをし、それを再配合することによってさまざまなそば粉を提供しています。

そば汁にも、砂場系、藪系、更科系と作り方もいろいろあります。返しの作り方にも、本返し、生返し、半返しがあり、返しに用いる砂糖の種類(三温糖、白ざらめ、グラニュー糖、黒砂糖)でも味が変わってきますし、興味は尽きないところです。出汁の取り方にも、本枯れ節を用いるもの、鰹、サバ節の混合節を用いるもの、昆布や干しシイタケを加えるものなどいろいろあります。
 現在、私は、砂場系に近いそば汁を作っています。
返しは、醤油(堀川屋三ツ星)500mlに白ザラメ砂糖125g、味醂135ml を順に入れ85℃まで火を入れ、5日以上室温で寝かせます。 出汁は、ヤマキ氷温熟成厚削りカツオ節70gを沸騰させた湯1050mlの中に入れ、強火で2分間分間、丁寧に灰汁をとり、その後弱火で計50分煮詰め、700mlの出汁(10%)をとります。 合わせは返し1:出汁3の割合で混ぜ、冷蔵庫で1日寝かせて使用します。(少し甘目のそば汁となります。)

更科そばは、更科粉主体(御膳粉)で打った白い色のごく高級な蕎麦麺で、蛋白成分が少ない分、生粉打ちは難しいとされています。越前そば粉の金華でも生粉打ちがうまくいったので、無謀にも最難関である御膳粉の水練りによる生粉打ちに加水率60%で挑戦しました。(御膳粉はでんぷんが多くタンパク質が少ないのでつながりにくく、熱湯を用いる湯捏ねが一般的です。)最終的には62%の加水が必要となり、ボールの中で捏ねるとまとまらないので、両手で加圧してまとめることができました。そば玉が固く延しが十分にできませんでしたが茹でても切れることがなく、太い歯ごたえのある透明感のあるソバとなりました。そば玉はもう少し緩いほうが良いようです。予想外の成功でした。!

以上、週1回のペースでそば打ちを行い、4か月が経ちました。そばがつながらなかったのは、初期の4回で、それもそばマシーンの時期で、そば粉の種類が変わり加水率がわからなかった時だけでした。その後、加水の仕方(理屈)が理解できてからは、水回しはほぼ満足できる結果です。水回し3年といわれるように加水後のそば玉(ドウ)の出来上がりが毎回異なり、まだまだ道遠しという感じです。延しの段階、そば切りの段階にまだ課題があり、これも経験が解決してくれるものでしょう。そして、そば汁の作成にもいろいろと工夫ができ、楽しみがあります。
 今は2人分200gの少量を打って家内と賞味していますが、そのうちにほかの人にも食べてもらえるよう、そば粉500g、1sの大きな玉にも挑戦したい思っています。

 藤村和男氏の「そば職人のこころえ」[蕎麦つゆ 江戸の味」は、そばの歴史、蕎麦つゆなどについて、一茶庵・友蕎子・片倉康雄氏の「手打ちそばの技術」は、そば打ちの詳細について紹介されています。また山本おさむ氏の「全国そば行脚”そばもん”というコミックがあります。現在14巻目でソバの薀蓄をコミック風にまとめており参考になります。(蕎麦つゆより蕎麦汁の方が正しい用語)

 私のそば打ちは、自己流で手ほどきを受けることなく、そばマシーンから始まり、三七そば、二八そば、生粉打ちそばなどを経験しました。妻は毎回そばに付き合ってくれていますが、最近の悩みは、そばのせいで少し太ってきたといわれることです。1人前の量を現在そば粉100gとしていますが、少し減らすことも考えなければなりません。

  そば打ちを始めようとご興味のある方は、かないまるさんのホームページ(http://kanaimaru.com/soba/soba.htm)が本当に参考になります。私の経験から、最終的にそば粉100%の生粉打ちを目指すなら、前半の余計な段階を省き、最初から生粉打ちで始めるのが良いと思います。

これからは、北海道(キタワセ)、青森(牡丹)、山形(最上早生)、長野(霧下)、茨木(常陸秋)、福井(越前)、宮崎(みやざきおおつぶ)など全国各地のそばを、新そばの季節の合わせて週1回のペースで生粉打ちを楽しみたいと思っています。

 なお、初期に使ってていました、そばマシーン「NEWいえそば」(タカラトミー)が無用になりましたので、ご希望の方に譲りいたします。ご希望の方はご連絡ください。(もちろん無料です)


7.ぬか漬け入門

生活習慣病の予防に乳酸菌が注目されています。その理由の1つとして、乳酸菌に腸内の悪玉菌の増殖を抑制する働きが挙げられます。この整腸作用以外にも、腸管の免疫系を適度に刺激して体の免疫力をアップさせたり、過度の免疫反応であるアレルギー反応を軽減させたりという効果もあるといわれています。このような能力がよりクローズアップされた乳酸菌が、プロバイオティックス(人体に有益な生きた微生物)と呼ばれ話題となり、特に植物に生息する乳酸菌が注目されています。

乳酸菌とは、糖を発酵して、その半分以上を乳酸に変える細菌の総称です。乳酸菌にとって糖は生きていくための栄養源で、糖を食べてその代謝物として乳酸を生成します。

乳酸菌には、動物性乳酸菌と植物性乳酸菌があり、現在、約20属、300種ほどの乳酸菌が見つかっています。動物性乳酸菌は、良く知られている例として、牛乳中で生育し、乳中の乳糖を乳酸に変え、柔らか味のある温和な酸味を持つヨーグルトを作り出します。植物性乳酸菌は、植物すべてに見られ、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖などの多糖類を利用して乳酸を作ります。野菜や果物も、乳酸菌が付着すると時間の経過とともに乳酸菌が増殖して発酵が始まり、やがて漬物になります。

形で見ると、大きく3つに分けられ、1つは長細い形状の乳酸桿菌、もう一つは球状の乳酸球菌、そしてY字状のビフィズス菌です。ブルガリアヨーグルトを作るブルガリア菌、最近話題の「すぐき」のラブレ菌などは乳酸桿菌で腸内の善玉の代表的なものです。乳酸球菌は、チーズ菌が有名ですが、これは腸内にはあまりいません。ビフィズス菌は、学術的にいうと乳酸菌のカテゴリーに入りませんが、乳酸を生産し、腸内における善玉菌であることから、一般に乳酸菌の仲間とされています。

少しでも多くの乳酸菌を生きたまま腸内に届けるには、ヨーグルトやぬか漬けなど身の回りの発酵食品を積極的に食べることが大切です。

ある日、NHKテレビで「ためしって合点」を見ていると、美味しいぬか漬けのコツを放映していました。漬物にはあまり興味はなったのですが、上記のことや小泉武夫氏の発酵の話を読んだりしていましたので、急に、ぬか漬けをやってみる気になりました。

最初から自分でぬか床を作るより、「糠種」を求める方が早道とのことで、近鉄百貨店の地下で「さだこの糠床」(種糠、昆布、椎茸、トウガラシなどが入っている)1.5sを、近くの金物屋で、鉄球(ナスの色づきを良くするため)を購入しました。容器は、陶器の容器があったので、それを利用しました。

ぬか床は、冷蔵庫の「野菜入れ」で保管するほうが管理しやすいということですが、冷蔵庫の野菜入れ(8℃)に空間がなかったので、ワインセラー(12℃)で代用しました。

最初の3日間は、植物性乳酸菌を増やす目的で、くず野菜を捨て漬けし、その後、キュウリ、カブ、ナス、ニンジンなどを漬けました。漬けていくうちにぬか床に増えてくる過剰な水分を除くために便利な「糠徳利」を購入しました。後に増えた水分はぬか漬けのエキスで、除かずに足しぬかで調整するのが良いことがわかりました。

ぬか床は、毎日かき混ぜずに、漬物を出す時に表面の灰色の色の変わった部分を中に押し込むだけとし、5日毎に糠床全体をかき混ぜることにしました。その際に塩と旨味成分@昆布(グルタミン酸)A鰹節、煮干し(イノシン酸)B椎茸(グアニン酸)を適宜加えました。
 また、4週間毎に乳酸菌の栄養源としての「足しぬか」(これも近鉄で400g購入)100gと塩10gを加えました。

ぬか床の中には、乳酸菌と酵母がいます。この酵母は産膜酵母と言って雑菌酵母です。産膜酵母は、ぬか床の表面に生えることからわかるように酸素を好む性質があります。産膜酵母が増えすぎると、ぬか床の好ましくない匂いになりますが、そういう時はかき混ぜて産膜酵母をぬか床の中の方に送り込めば、酸素がないので生育は止まります。
 乳酸菌は、通性嫌気性菌といわれ、空気があってもなくても増殖するという性質を持っています。ぬか床の中は通常空気はありませんが、かき混ぜると空気に触れます。この弱嫌気状態は、空気があってもなくても生きられる乳酸菌にとって、非常に好都合の環境ということになります。ぬか床を適度にかき混ぜることは、表面の産膜酵母をぬか床の中に押し込んで、空気を遮断して酵母の増殖を抑え、糠床の底の嫌気性菌の酪酸菌を空気に触れさせて増殖を抑えることで、乳酸菌の増殖しやすい条件を作り出す大切な作業です。

「ためして合点」では、「足しぬか」をした後は、室温(乳酸菌を増やす段階では冷蔵庫に入れない)で3日間何もせずに放置して、糠床の表面が白くなる産膜酵母の発現を待って、ぬか床をかき混ぜるということでした。産膜酵母が出てくることは、乳酸発酵が進み、乳酸が多くなったぬか床の状態を示すと説明されていました。要は産膜酵母が発生するほど、乳酸菌が元気になっているという事です。

発酵学的には、足しぬか後、最初の3日はLb.mamurensisが勢いよく増え乳酸濃度を上げ、それに伴って糠床の表面に産膜酵母が発現します。その後にLb.acetotoleransが緩徐に増えて約2週間で主流菌となり、ぬか床のPH4.84.4に下げ,この環境が、雑菌の繁殖を抑える安定したぬか床となるとのことです。
 糠床に付け込んだ野菜は、生で食べるよりも、ビタミンB1,B2、ナイアシンといったビタミン類などの栄養価がアップすることがわかっています。ぬか床1gには、10億の乳酸菌が生息しているといわれ、上記の主要菌以外にさらに10種類以上の乳酸桿菌がいるそうです。

ぬか床の乳酸菌の種類を増やす目的で、ぬか床へカゴメラブレ( Lb. brevis subspecis  cogagulance)やキムチ漬けの液を入れてみましたが、漬物の味にはあまり変化がありませんでした。
 「種糠」を用いない場合は、Lb.mamurensisb.acetotolerans の協調発酵をうまく導き出せず、安定した糠床になるのに時間がかかるということです。

5月に実山椒が出てきたので、実山椒を水洗いした後、塩少量いれた熱湯に1分間漬け、冷水で10分間さらす。その後キッチンペーパで水分を取り、約25gずつに分包して、冷凍保存しました。実山椒は、ぬか床の香りづけに用いました。旨味を出す目的で、100%リンゴジュースを加えたところ、漬物に甘味が出たように思います。

ぬか漬けを始めて、数か月が経ち、ぬか漬けらしい味に安定してきましたが、我が家独特の味を出そうとレモン汁、黒砂糖、きな粉や米麹を加えたり、試行錯誤している毎日です。

インターネットで色々と調べているうちに福岡の千束、糠床販売専門店を見つけ、糠床1sを購入しました。昔ながらの黄金色で糠味噌の匂いがあるもので、従来の糠床に加えたところ、漬物の味がおいしくなりました。千束の糠床は200年続く伝統のあるものとのことです。近いうちに100%千束の糠床で漬けてみたいと思っています。


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