第21回分子糖尿病学研究奨励賞

骨格筋におけるアディポネクチン経路の生理的意義の解明
 


 

岩部 真人、山内 敏正、岩部 美紀、船田 雅昭、山口 麻美子、羽田 裕亮、脇 裕典、
植木 浩二郎、門脇 孝

東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科
 

  [目的]

 

ヒト2型糖尿病やインスリン抵抗性の原因の一つとして、骨格筋におけるミトコンドリアの機能低下が関連する可能性が注目されている。我々は、肥満でアディポネクチン/AdipoRが低下しインスリン抵抗性、耐糖能障害が惹起されることを報告したが、今回、Muscle-specific AdipoR1欠損マウスを用い、AdipoR経路の骨格筋における生理的意義の解明をミトコンドリア機能を中心に試みた。
 
  [方法] 相同組換えを用いた定法によって、Muscle-specific AdipoR1欠損マウスを作製した。ミトコンドリア生合成及び電子伝達に関わる遺伝子等の発現をリアルタイムRT相同組換えを用いた定法によって、Muscle-specific AdipoR1欠損マウスを作製した。ミトコンドリア生合成及び電子伝達に関わる遺伝子等の発現をリアルタイムRT-PCR法にて検討した。筋繊維のtypeをATPase染色にて検討した。運動持久力試験のため、トレッドミル運動負荷試験を行った。また、糖負荷負試験、グルコースクランプ試験を行った。
 
  [結果] 骨格筋でのアディポネクチン生理作用を検証するために、アディポネクチン投与実験を行ったところ、骨格筋でのAMPKのリン酸化はMuscle-specific AdipoR1欠損マウスでは低下していた。Muscle-specific AdipoR1欠損マウスの骨格筋では、PGC-1αの発現低下が認められ、更に、PGC-1αの脱アセチル化も抑制され、活性化したPGC-1α量が低下していた。それらに伴ってミトコンドリアDNA含量が低下しており、Errα、CytCも低下していた。また、ATPase染色にてMuscle-specific AdipoR1欠損マウスの骨格筋ではtype1 fiberの低下が認められ、運動負荷試験では持久力の低下が認められた。酸化ストレスの消去に関わるSOD2、Catalaseも低下し、酸化ストレスマーカーであるTBARSが上昇していた。また、脂肪酸燃焼に関わるMCADの発現低下が認められ、骨格筋での中性脂質含量が増加していた。糖負荷試験においては、糖負荷後の血糖値及びインスリン値は有意に上昇しており、インスリン抵抗性、耐糖能障害が認められた。グルコースクランプ試験においては糖取り込みの有意な低下が認められた。
 
  [結論] アディポネクチン/AdipoR経路が骨格筋においてMEF2、PGC-1αを介し、ミトコンドリア機能や数の調節及び酸化ストレス消去を行い糖代謝を調節している可能性が示唆された。また、アディポネクチン/AdipoRシグナルを増強することが、運動をmimicするという新しい視点で、肥満症、2型糖尿病の新規治療法となる可能性が示唆された。