第20回分子糖尿病学研究奨励賞

オートファジーは膵β細胞の恒常性維持およびストレス応答に必須である
 


 

内田豊義§、江波戸千恵§、荒川将之§、小松雅明、上野隆、小宮幸次§、東浩介§、小南英紀、河盛隆造§、藤谷与士夫§、綿田裕孝§

§順天堂大学医学部 内科学 代謝内分泌内科学講座
‡  順天堂大学 第一生化学講座
 

  [目的]

 

オートファジーは、非選択的蛋白質分解機構として知られ、選択的蛋白質分解系のユビキチン・プロテアソーム系と独立的かつ協調的に作用していると考えられている。生理的には、酵母を含む真核生物において保存されている栄養飢餓時の細胞内アミノ酸供給および細胞内恒常性維持を担う重要な機構と考えられている。このオートファジーには、恒常的なオートファジーと共に生命を維持するために、環境変化に応じて変化する誘導的オートファジーが存在する。いくつかの臓器におけるオートファジーの役割は検討されているが、膵β細胞におけるオートファジーの役割に関しては全く解明されていない。そのような背景を受け、本研究では、膵β細胞におけるオートファジーの役割を解明することである。
 
  [方法] Autophagosomeの形成に必須な遺伝子であるAtg7を膵β細胞特異的に欠損するマウス、膵β細胞特異的Atg7ノックアウトマウス(Atg7f/f:Cre)、およびそのコントロールマウスであるAtg7 flox/floxマウス(Atg7f/f)に8週齢より普通食(8週間)および60%脂肪食(12週間)投与を行った。
 
  [結果] 膵β細胞における恒常的オートファジー検討を目的とした普通食投与においてAtg7f/f:CreマウスはAtg7f/fマウスに比較し、体重増加や摂食量に有意差を認めないが、随時血糖値高値およびブドウ糖負荷試験においてブドウ糖応答性インスリン分泌不全に基づく耐糖能低下が認められた。Atg7f/f:Cre膵ラ氏島組織は、光顕レベルにおいて膵ラ氏島の構造変化(ballonning cell様の構造変化)を認め、免疫染色において膵β細胞内にPolyubiquitin化蛋白およびubiquitinのアダプター蛋白であり、オートファジーに特異的により分解されるp62の蓄積が認められた。電顕レベルでは、ミトコンドリア変形、封入体形成を認めた。誘導的オートファジー検討を目的とした高脂肪食負荷においては、膵β細胞容積の増加不良を認めた。一方、in vitroの検討において、インスリン抵抗性で増加する遊離脂肪酸(オレイン酸、パルミチン酸)にて時間・濃度依存的にオートファジーの誘導が観察され、同時にp62の誘導も認められた。
 
  [結論] 膵β細胞におけるオートファジーは、膵β細胞機能維持およびストレス応答の一端を担う機構であり、その機能不全が2型糖尿病様の膵β細胞機能低下に関わることが示唆された。