1型糖尿病モデルKDPラットにおける主要遺伝子Cblbの同定
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千葉大学大学院医学研究院細胞分子医学 東京医科大学動物実験センター1) 京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設2)
横井 伯英、米田 嘉重郎1)、芹川 忠夫2)、清野 進
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【目的・方法】1型糖尿病に関与するMHC以外の主要遺伝子は明らかでない。
我々は、ヒト1型糖尿病のモデルであるKDPラットの解析から、
このモデルではIddm/kdp1と名付けた主要遺伝子座とMHCで糖尿病に
対する遺伝的感受性が規定されることを報告してきた。
今回、Iddm/kdp1 のポジショナルクローニングを試みた。
【方法・結果】交配実験および連鎖解析によりIddm/kdp1 をラット染色体上に
マップした。次に、ラットおよびマウスのYAC/BACクローンにより当該
領域を包含する物理地図を構築し、YAC/BACクローンの塩基配列を決定する
ことなどから転写単位の同定を行った。同定した2つの遺伝子のアミノ酸
コード領域についてKDPラットにおける変異を検索した。また、KDPラットの
様々の臓器について組織学的解析を行った。最後に、マウスH-2Kdプロモーター
の支配下に野生型Cblb遺伝子を発現するトランスジェニックラットを作製し、
KDPラットへ戻し交配を行って得られたN2個体について膵島炎および糖尿病の
発症を観察した。
【結果】Iddm/kdp1をラット第11染色体上の3.1-cMの領域に限定し、当該領域に構築した
物理地図の解析からAlcam遺伝子とCblb遺伝子を見出した。KDPラットのAlcam遺伝子
には変異を認めなかったが、Cblb遺伝子にはナンセンス変異を同定した。
KDPラットは膵島以外に甲状腺、顎下腺、腎臓など様々の臓器にリンパ球浸潤が
認められ、自己免疫の症状を呈していることがわかった。野生型Cblb遺伝子の導入に
よってKDPラットの膵島炎および糖尿病の発症が抑制された。
【結語】1型糖尿病モデルKDPラットにおける主要遺伝子としてCblbを同定した。Cblbは
自己免疫を抑制する分子であり、それが関与するシグナル経路の破綻が1型糖尿病を
含むヒト自己免疫疾患に関与ることが示唆された。